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3.怨讐の音

3.怨讐の音
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屋敷に圧倒されながらも、何時までも佇んでいるわけには行かない。慣れない山道を歩いてきた為に、随分日も傾いてきた。早く真冬達を見つけて下山しなければ、このままここで夜を越す事になるだろう。

「深紅、大丈夫?」

やはり屋敷の雰囲気に当てられたのだろうか、浮かない表情を浮かべている深紅に綾は声をかけた。正直、このまま来た道を引き返してしまいたいという気持ちの方が強い。だが震えながらも気丈に振舞おうとしている深紅を放っては置けなかった。もし彼女が帰ろうと言っても深紅は聞かないだろうし、一人ででも屋敷の中に入ろうとするだろう。

首の後ろがチリチリと傷む。
こんな感じがする時は、決まって悪い”ナニカ”が近くにいる時だった。

「・・・・綾ちゃん行こう。兄さんを見つけなきゃ・・・・」

深紅の言葉には綾も頷いた。
どうか、自分の感覚が間違っている事を願いながら。


***
 

人の住まなくなった家というのは、内側から荒れ果てていくらしい。まだ堂々とした佇まいを残していた外観とは対照的に、屋敷の中は酷く荒れていた。あちらこちらに物が散乱し、ふすまや障子は破れ、嘗て其処で光をはじいていただろう白い紙も本の僅かしか残っていない。それでも基礎はしっかりしており、 一部梁が崩れている所はあるものの、いきなり屋敷が崩れるという危険性は薄い、というのが唯一の救いだろうか。

それにしても、一体何坪ぐらいあるのだろう?
外観から想像していたよりも、ずっと大きく広い屋敷に圧倒されそうになる。だが同時に、綾の中に何故という疑問がわいてくる。この屋敷の持ち主であったという『氷室』という一族は、神事を司るだけでなく、この地域一帯に勢力を持つ豪族であったという。家柄も古く、近世まで その力は変わらず続いていた。だが、突然起こった当主の乱心という事件により一族は滅び、この屋敷だけが残された。

けれど、考えてみればそれも不思議な話だ。
当主の乱心。
勿論それは一族にとっては大変な事件であったに違い無い。けれど一族が滅びる理由には決してなり得ないとも思う。当主を廃し、別な者を立てればよいだけの話だ。仮に当主に跡取りが居なくとも、これだけ大きな家だ、分家なども有っただろう。継ぐ者が無かったわけでは決してないはずだ。

運転手から聞かされた当主が一族全員を殺害した、というのも誇張なのだとは考えていた。
勿論そういった事実はあったかもしれない。
けれど他に何か・・・。

そう、彼らを巻き込んだ大きな災禍があった事は間違いないだろう。
一族全員を滅してしまえるような、大きな何かが――――

ぶるり、と体が震えた。
考えても仕方がない。綾は気持ちを切り替えるように頭を左右に振った。

「深紅、どう? 夢で見たのと同じかな?」

傍らで同じように不安げに佇んでいた深紅へ尋ねる。ここが深紅の夢に出てきたという屋敷であれば、真冬が向かった道もわかるのではないだろうか。そんな風に考えた結果だった。

「・・・うん、多分こっちだと思う。長い廊下があるはず・・・」

そういって深紅は左側を指し示す。崩れてはいたが、先に木製の扉がある。何とか進めそうな隙間も出来ていた。

「そっか・・・、じゃあ行こう。足元気をつけてね」
「うん・・・・」

屋敷の中は薄暗く、とても灯り無しに歩けるような場所ではなかったので二人は懐中電灯で辺りを照らしながら歩いていた。天井や壁に、照明設備のようなものは見当たらない。まぁ、有ったとしても使えないだろうが。だが、所々に蝋燭立てや、時代を感じさせるランプのようなものは置かれてあった。幾つかまだ蝋燭の芯が残っているものもある。つければ幾らかはこの屋敷も明るくなるだろうか、という思いに駆られたがさすがにどこかに燃え移る可能性もある為控えておく事にする。

それに、この屋敷の暗さはただ単に灯りが無い、というだけでは無い気がしたのだ。

「うわっ・・・何これ?」

キィキィ音を立てる床を踏み鳴らしながら、真冬が向かったと思われる廊下へと出た二人は、そのあまりにも異様な光景に思わず声を上げた。

「これ・・・縄? 何でこんなに沢山・・・・」

長く伸びた廊下。
恐らく二階の部屋の光がもれているのだろう。上部から薄らと光が差し込んでいる。だがその光が返ってその異様な姿を生々しく浮かび上がらせていた。高く作られた天井の板、そこから幾つもの縄が垂れ下がっていた。懐中電灯で照らしてみると、破れてはいたがどうやら紙垂(しで)をつけたものもあるようで、もしかしたら神事に関わりあるものかもしれない。だが暗い天井から垂れ下がる縄は、まるでこの廊下を通る者を捕らえようと待ち構えているようで、時々隙間から吹く風に揺れてユラユラと動く様子がまた更にそんな思いを上長させていた。

「趣味悪・・・」

怖い、と口に出したら返ってその思いに支配されてしまいそうで。けれど何か口に出さないと、更にこの場の雰囲気にのみこまれてしまいそうだった綾は、やっとそれだけを口にする。だが、そんな綾の後ろから廊下の様子を見ていた深紅が急に「あ!」、と声を上げた。

「カメラ・・・、兄さんのカメラだわっ!!」
「え?」

見れば廊下の丁度中央にぽつん、と何か四角いものが落ちている。自分達が良く見る、現在の形とは違う、骨董品店や博物館に並んでいそうな、古い形をしたもの。大きさも形も無骨で、見るからに重そうではあったが確かにそれはカメラだった。

「あ、深紅っ!!」

それを認識した瞬間、深紅が走り出した。
綾が止める暇も無く。

「待って、深紅! それに触らないで!」

慌てて綾も深紅の後を追う。恐怖心や何かあるかもしれない、という不安感は吹き飛んでいた。ただ、深紅があのカメラ-射影機-に触れさせてはいけない、という思いだけが彼女の中にあった。もしあれが真冬の持っていたものであれば、それは間違いなく、彼らの母親、雛咲深雪の持っていたものであろう。 

『姉さんはあのカメラを持ってからおかしくなった・・・・』

嘗て父親が言っていた言葉が蘇る。
だが止める言葉もむなしく、深紅は射影機を拾い上げてしまった。
途端、深紅の体がビクッ、と大きく震えた。

「深紅っ!!」

慌てた綾が、直ぐに深紅の手から射影機を離そうと手を伸ばす。だがが射影機に手を触れた瞬間、彼女の脳の中に映像のようなものが流れ込んできた。

暗い廊下を必死で走る青年の姿。
何かから逃げるように、青年は必死で走りながらも、時々後ろを振り返っている。

走って、走って、走って――――――

後ろから伸びてくる白く長いものを振り払う際、青年の手から四角い物が滑り落ちた。ガシャンッ、と硬質な音が響く。青年はそれを気にしながらも、既に真後ろまで迫ってきている”ナニカ”に阻まれてそれを拾い上げる事が出来ない。再び彼は背を向けて走り去ろうとする。

『待って――――――』

違うと感じながらも綾は叫んでいた。
この映像は自分が見ているものではない。恐らくこの射影機に残されていた真冬の思念が深紅を通してにも流れ込んでくるのだろう。 

『待って―――、そっちに行ったら駄目―――――! ”ナニカ”居る!!』

けれど解っていても言わずにはいられなかった。
真冬が向かおうとしている先に、彼を追っている存在よりももっと強い、酷く怖い”ナニカ”がいる。
行ってしまったら、真冬は戻ってこられない。漠然としか感じられなかったが、それはにとっては確信に近い思いだった。

『行かないでっ、行ったら駄目! 真冬さんっ!!』

観えたときと同様に、唐突に映像は途切れた。
再び自分の目で捉えた景色の様子に頭と心が付いていかず、きょろきょろと辺りを見回し、自分が本当にここにいる、という事を確認しなければならなかった。

「・・・・・・・・今の・・・何?」

自分の発した声で漸くこれが現実なのだと認識する。
伸ばした手の先から、僅かな振動が伝わってきた。それが深紅の体の震えだと気づいた綾は、漸くそこに自分以外の存在が居た事を思い出した。

「あ・・・、深紅、平気?」

綾にも深紅や真冬と同じ、霊感というものがある。”アリエナイモノ”を見る力も決して弱くはない。けれど、現実と非現実の認識が取れなくなるほどはっきりとした 映像-恐らくこの射影機に残っていた真冬の残留思念-を見るなどということは初めてで。頭の中がどうにもはっきりしなく、気持ちが悪い。

自分でさえこうなのだから、深紅はもっと酷い不快感を感じているのかもしれない。
力なく床に座り込む深紅は、どうやら泣いてもいるようで。射影機を抱え込みながら、『兄さん・・・』と何度も呟いている。

とにかく霞む頭をどうにかしようと、頭を強く左右に振り、もやを振り払おうとした。
だが、ふと横にそれた視線の先に映ったものに再びビクリ、と体を硬直させてしまう。

二人がいるのは廊下の中央部。何の意味があるのかは知らないが、この廊下の右側には大きな鏡が取り付けられていた。それが丁度、綾や深紅のいる場所であり、姿見よりも大きな鏡が彼女達の姿を映し出していた。だがほの明るい光の中、映っていたのは自分達だけではなかった。綾の左隣、肩の丁度後ろの辺りに、白地に花模様の描かれた振袖を着た、髪を肩より少し先で切りそろえた少女が立っていた。慌てて視線をそちらに向けるが、少女の姿は何処にも無い。だが、鏡の中には確かに着物姿の少女が立ってこちらをじっと見つめていた。

「っ!!」

思わずぎゅっ、と深紅の肩を掴む手の力を強めてしまった。痛みを感じたのかもしれない、深紅が赤く染まった瞳をのろのろとの方へ向ける。だがの視線と、鏡に映っている者の存在に彼女もまたビクリ、と身をすくませた。

「綾ちゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

本能的な恐怖。
居るはずの無いものが其処にある、というありえなさが一瞬身を硬くさせたものの、鏡に映る少女はただ二人を見つめてくるだけで、それ以上のことは何も起こらない。不思議な事に、最初のありえなさに慣れてくると、二人ともその少女を恐ろしいとは思えなくなっていった。それには少女の纏っている雰囲気、自分達を見つめてくる眼差しがどこか物悲しさを含んでいるように感じられたからかもしれない。

「深紅・・・立てる?」
「う、うん・・・。綾ちゃん、これって・・・」

だがいくら恐ろしく感じはしない、といっても目の前の少女が『ありえないモノ』であるという事には変わりは無かった。とにかくこの場から離れたい、という思いから綾は深紅に立ち上がるように促す。だが次の瞬間、それまでこちらをただ見つめてくることしかなかった少女の口が動いた。

「え・・・?」

声は聞こえない。
直接脳内に響いてくるような、強いて言うのであれば音波のようなもの。
だがそれははっきりと一つの意味を持って二人の中に届いた。 









途端、を襲ったすさまじい悪寒と恐怖。

「深紅っ、走ってっ!!」

少々無理やりではあるが、深紅を立ち上がらせると彼女の腕を握ったまま走り出す。
次の瞬間、悪寒が更に強く彼女の中を走り抜けた。

「ひっ!!」

深紅も感じているのだろう、綾の手が強く握りしめられる。
鏡から、壁から、後ろから、白く長いものが幾つも幾つも伸びてくる。それは逃げる二人を捕まえるように、伸ばされた人の腕。ありえない長さではあるが、確かに5本の指をもったそれは必死で逃げる二人へと次々に伸びてきた。

「きゃあっ!!」
「深紅っ!!」

何かに足をとられ、深紅が床に転倒する。みれば床から伸びた白い指が彼女の足首に絡み付いていた。

「いやあ・・・っ!!」

二人の動きが止まったのを良いことに、次々と手が追いすがってくる。
足に、腰に、腕に―――――

「いやっ、近寄らないでっ!!」

身をよじって振りほどこうとするが、手は一向にひるまず向かってくる。腕に絡み付こうとしてきた手を振り払おうと、指が触れた瞬間、何かの声のようなものが中に流れ込んできた。 

イタイ――――

ビクっ、と恐怖とは違う感覚が綾の体をこわばらせる。普通に聞こえる声とは違っていたが、それは甲高く、幼ささえ感じさせた。まるで、子供の声のように。そして良く見ると全て同じかと思っていた白い手は、太いもの、細いもの、小さいものと様々で。ペタリ、と全く体温が感じられないそれが体の何処かに触れるたびに、二人の中に声のようなものが流れ込んでくる。 

ドウシテイタクスルノ―――――

クルシイ――――――――――ナゼキルノ

ヤメテ―――コロサナイデ 

ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ―――――――――――――― 

イタイヨ―――――――――
 

「あ・・・・いやっ、いやあぁぁぁっ・・・・・・・・!!」
 

触らないで、聞かせないで。
こんなもの、こんなの――――。

男も女も子供も老人も。
誰のものかも解らない声が幾つも幾つも流れ込んでくる。
どれもこれも苦しさや痛みに満ち溢れていて、体にではない痛みをの中に残していく。

「離してっ!!」

首元に伸びてきた腕を振り払おうと、思わずそれを掴んでしまった。冷たいぐにゃりっ、とした感触を感じたが、次の瞬間それはポロポロとの手の中から崩れていく。まるで水分を失った菓子のように。

「えっ?」

だが驚いたのは彼女だけではなかった。粒子となってその腕が消えた途端、どれほど身をよじっても全く緩まなかったそれらの力が緩んだのだ。自らを掴む冷たい感触に、僅かな隙間ができた事に気づき、直ぐ様体を大きく揺り動かし、未だに絡み付いていた腕を払った。

「深紅っ!!」

自由になった足で、直ぐ様深紅に近づくと、彼女の足を掴んでいる"モノ"へと手を伸ばした。強く握りこむと、やはりそれも白い粒となってぽろぽろと消えていく。腕が完全に粒子になると、綾は深紅の腕をとって再び駆け出した。だが、逃げ出した二人に触発されたのか、それらも再び勢いを持ち、追いかけてきた。

それでも警戒しているのか、先ほどまでの勢いは感じられなかった。
逃げ切る事は可能だろう。
だが、何処へ? 一番安全なのは屋敷の外へ出てしまうことだろうが、入り口への道はあれらが塞いでしまい通る事は出来ない。このまま屋敷の中へ進んでしまってよいのだろうか? 躊躇う思いが頭の中に浮かぶ。そんな時、握り締めていたはずの深紅の腕がするり、と手から抜けていくのを感じた。

「深紅っ?」

驚いて後ろを振り向いた。だが、深紅はその声に振り向かず、ゆっくりとだが逃げてきた方向へと歩いて行っている。先ほど拾った射影機を構えながら。

「深紅、何をしているのっ!?」

呑気に写真撮影なんかしている時か、と慌てて駆け寄ろうとした綾の前を一瞬眩しい光が走った。それが射影機のフラッシュだと気づくには、多少時間がかかった。目の前で再び信じられない光景が始まったからだ。フラッシュが光った瞬間、深紅にまとわり付こうとしていた白い腕が後ろに吹き飛ばされたようにのけぞった。まるで波の動きを受けて動く海草のようだと、その奇妙な光景を分析してしまうあたり、かなり頭がまともではないのかもしれない。

次の瞬間、腕から白い光のようなものが次々に溢れてきた。蛍の光のような粒上のそれは、次々に現れては深紅の持つ射影機のレンズの中に消えて、いや吸い込まれていく。同時にあれほどはっきりとしていた腕の方はどんどん薄くなっていき、最後には全て吸い込まれ――――――――。
 

消えた。
 

「・・・・・・・・・・・・・・・深紅?」

一体何が起こったというのだろう。
射影機が、霊を吸い取ったように見えた。アリエナイものを写すカメラ、それが射影機。少なくとも、綾はそう認識していた。だが、それだけではなかったのだろうか?

「・・・・・・・兄さんもこうやって、この射影機を使って霊を封印していたの・・・・・・・・・」

さっき、それが見えたわ、と深紅は呟いた。
ゆっくりと深紅がの方を向く。未だ少し瞳が赤い。

「悲鳴が聞こえた・・・・・・霊が吸い取られている間、止めてくれって。痛いって・・・・。綾ちゃん・・・・・・」
「深紅っ!!」

ずるずると力なく床に座り込む深紅をは慌てて支えた。

「痛いのに・・・苦しいのに、何で、って・・・・・・・何で苦しめるのって・・・・・・・・」

ヒックヒックとしゃくりあげながら、深紅は言葉を続ける。
悲しみや苦しさを言葉として吐き出しているように。

「深紅、良いから。もう良いから、こんなものもう使わなくて良いから、ね。もう大丈夫だから」

深紅の細い肩を抱きしめながらは必死で言い続ける。
深紅にはもうこの射影機を使って欲しくなかったし、関わって欲しくなかった。 

射影機-アリエナイモノ-を写し取るカメラ。
霊を封印する力のあるカメラ。 

『姉さんはあのカメラを持ってからおかしくなったんだ・・・・・・』 

父親の言葉がの中に蘇る。
深紅の母親、深雪は―――――――――― 

 

この射影機に殺されたのだ。 

只今、ちょこちょこ修正中です。
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