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1,夜に消えゆく

1.夜に消え行く 
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遠い異国で、電器というものが発明されてからどの位が経つのだろうか。少なくとも、その人工的な明かりが人々を暗闇の支配から解き放ってから100年以上は経っていないだろう。

恐れながら、憎みながら

常に傍らにあった闇は人々の英知によって遠ざけられたように見えた。
けれどどうだろう。
人の密集する都心から少し離れれば、この国には未だ闇が支配する土地が無数に存在する。

ザワザワと風が木々を揺らす。明るい光の下ならば何でもないその行為が、闇の中では酷く恐ろしいものに感じられてしまうのは何故なのだろうか。さくさくと音を立てながら舗装されていない道を歩く。行く手を遮るように生える草を手で払いながら、いっそのことこんな中途半場ではなく、もっときちんと行く手を塞いでくれれば良いのに・・・。
そんな風に考えてしまった事に青年は苦笑をもらした。
数ヶ月前から行方がわからなくなっている知人の足取りがつい先日漸くつかめた。仕事の場だけでなく、プライベートでも親しく付き合っていた彼が取材に行くと言って出かけたのが4ヶ月前。作家という職業柄、取材であちこちへ訪れていたし、それが長期になり、一月ぐらい連絡がつかなくなることは以前にもあったから、最初の内は心配などしていなかった。だが、同行していた秘書、そして雑誌編集者までも行方が解らなくなったと聞いたとき、誰もが彼の身に何か起こったと理解し、捜索が始まった。

ジャーナリストという仕事を生業として選んでいた自分も、持てる限りの情報とネットワークを使って彼の行方を捜した。そしてたどり着いた、一軒の屋敷の噂。嘗て『氷室』という一族が住んでいたという屋敷が東北の山中の中に未だ現存しているという。『氷室家』はどうやら神事を行う家系であったらしく、代々の当主は神主として何年かに一度『儀式』を行っていたらしい。

だが、地方の大きな家にはありがちな事だが、彼らは閉鎖的な家柄だったようで、その儀式がどのようなものなのか。そして何を祭っていたのかという記録や資料は全く残されていなかった。知人はミステリー作家として名を上げていたが、民俗学や歴史に造詣が深く、時折その関係の仕事も受けていたから、今回もその関係で『氷室家』に取材にいったのだろう。

そうして、そこで消息を絶った・・・・。 

時折、木々の間からほんの僅かに降り注いでくる月の明かりと、手に持つ懐中電灯が果てない闇の中を歩く青年の唯一の命綱のように思えた。なんとも心もとないものだ、と苦笑をもらしながらも青年はそれでも足を進める。やがて鬱蒼と生い茂っていた木々の姿が消え、開けた広場のような場所に出た。

「あれが・・・」

ぽつり、と青年が呟いた。嘗てこの辺り一帯を治めたという氷室の一族。
その力を示すかのような、巨大な屋敷がそこにあった。

 

*** 

 

キリリ・・・と、限界まで弦を引く低い音が響く。『離れ』(発射)まで一歩手前という、このピンと張り詰めた感触が綾は好きだった。ビンッと限界まで張られた弦が少女の手から離れた。同時に放たれた矢が真っ直ぐに的へと飛んでいく。

タンッ、と木と木がぶつかり合う音が演習場に響く。紅い羽のついた矢は正確に的の中央を射抜いていた。途端、わっと歓声が湧き上がる。

「きゃあっ、さすが高倉先輩!!」
「あの方だけよ、女子で近的も遠的も正確に射抜けるの!」
「綾せんぱーい、こっち向いてくださ~い!!」

それまでの静寂が嘘のように、湧き上がった黄色い声。だがそれを受ける少女は、意に関した様子などなく 、何の表情も浮かべないまま構えていた弓をゆっくりと下ろしていく。弓道は矢を放って終りではない。精神の修行になるという言葉をよく聞くが、一見簡単な動作を繰り返しているように見える和弓にも細かな動作の規定がある。矢を離した後、少なくとも残心、弓倒し(ゆだおし)と、二つ以上の動作を行な ってからでないと終了とならないのだ。

ほうっと息を吐きだし、少女は漸く射位置から体を離した。身を翻す動きに合わせ、頭の上部で結わえられている黒く長い髪がさらりと揺れる。凛々しいその姿に観客からは再び歓声が沸きあがったが、彼女はそれに答えず、むしろ煩そうに顔を僅かに歪めながら、そそくさと休憩用のスペースへと入っていった。

タオルで汗をぬぐっていたところ、後ろで廊下に通じるドアが開く音が聞こえた。誰かが室内に入ってくる気配を感じ、僅かに体を強張らせながら顔を上げるた。額に汗を浮かばせた青年が、かばんの中からタオルを取り出している姿が目にはいってくる。

それが知人の青年-神田俊明-だという事に気づいた綾は、小さくため息を吐き出すと、漸く体の強張りを解く。弓道部の練習場があるこの体育館は複数のクラブが使用する場でもあり、この休憩場も各部員が共同で使用する場所だった。ある程度心を許した友人ならば良いのだが、見知らぬ他人と同じ空間にいるということが綾はどうにも苦手だった。別段恐怖を感じる、というわけではないのだが、無意識の内に体が緊張を持ってしまうのだ。

「お疲れ、相変わらず凄いな」

視線に気づいたのか、青年は一通り汗をぬぐった後、人好きのする笑みを浮かべながら綾へ話しかけてきた。

「嫌味ですか・・・神田部長」

神田は心底嫌そうな少女の言葉に苦笑を浮かべた。

「別にそういうわけで言ったんじゃないんだけどな・・・。実際、高倉は俺から見ても格好良いと思うし。人気があって俺なんかは嬉しいと思うけど」
「・・・・・じゃあ変わってあげますから。何時でも遠慮なく言ってください」

その言葉に、今度こそ神田は「すみませんでした、もう言いません」と謝罪の言葉を口にする。けれど何処か笑いを含ませたその言葉に、少女-高倉綾-は、「全く・・・」とため息交じりに呟いた。

本当にいい加減にしてもらいたいものだ、と思う。元々嫌われていたというわけではないが、それまで他者とは何処か一線を引いていた感のあった自分だ。 なのに、何故突然こんなに騒がれるはめに陥ってしまったのか。その原因を思い出して、綾は再びため息をついた。それは、彼女が今年の『全国高等学校弓道選抜大会』の個人競技の部門で優勝したことからそれは始まっていた。

大勢の出場者がいた中で、綾は一際目立った存在だった。弓の腕前は勿論だが、弓を引くときの動作、立ち振る舞い。纏った雰囲気など明らかに周囲とは一線を越えていた。本人などは会場の雰囲気に飲まれて緊張していただけだったといっていたが、共に大会へ出場し、傍らにいた神田にはその意味が良くわかっていた。

立ち振る舞いの美しさだけではない、綾の弓技には何処か清廉とした雰囲気があった。ピンと張り詰めた弓、限界まで引かれた弦を撃つときのキリリとした感触。それら全てが綾と一体になり、そして放たれた矢が真っ直ぐに的の中心へと飛んでいく。その動作の一連が神聖な儀式のように神田には感じられた。恐らくそれは他の者も同じだったのだろう。古来より弓は魔よけの力が有るとされており、今でも神事に使われているというがその意味が漸く解ったような気がした。

結局、個人競技で綾が優勝した以外は主だった成績は上げられなかったものの、それまでどちらかといえば地味な存在だった弓道部の地位は、それ以後一気に高まった。連日押し寄せてくる観客と、その歓声に辟易しながら(これが入部希望者であったなら歓迎できるのだが)、それでも綾が弓を引く間は静かにしていてくれるし、他の部員達もにぎやかになって良いと半ば面白がっていたりするからまだ我慢をしていたりする。

だが正直に言ってしまえば自分は見世物の人形ではないし、騒がれるのも、いや人付き合いもどちらかといえば苦手としていた。先日、綾と神田は弓道部の男子部長、女子部長を引き継いだばかりだったが、それも前部長達に押し切られたといった方が正しい。元々、弓道も父親の勧めで始めたものであったから、思いいれがそれほど有ったというわけでもないし、今更といわれるかもしれないが、正直彼らとどう接したら良いか迷っていた部分もあった。

他者と深い関係を築くことを好まない。
その原因は綾の”とある事情”に付随するところも大きいだろう。
けれど何か、もっと根本的なところで自分は他者から一線を引いている感があった。

それでも何とかやっていけているのは、神田の助けがあってこそだと思う。同じ責任を負うという立場になり、色々と話を交わす内に彼が、大らかで明るい性格の持ち主であること。けれど他者に対して、細やかな気遣いが出来る青年だと気づき、至らないところ、足りないところを補い合っている内に今では彼は大切な友人となっていた。彼がいなければ、自分はとても他の部員達を纏めることなど出来なかっただろう。

「と、そうだ忘れてた。雛咲がお前を呼んでたぞ」

突然出された幼馴染の名前に、椅子に腰掛けていた綾は驚いて立ち上がる。

「え、ちょっと早く言ってよ?」
「悪い・・・。何か真剣な顔してたけどさ、話長引きそうだったら今日はそのまま上がってくれても良いぞ。女子の方はやっとくから」
「本当、ありがとう! じゃあ、悪いけどお願いね」
「おう、しっかり聞いてきてやれよ」

神田に礼を言いながら、綾は練習場を後にした。行き先はこの練習場のある体育館の屋上。深紅は人の多い場所が得意ではない。人嫌いというわけではないが、綾と同じく彼女も特殊な事情を抱えており、それが人との接触を自然と少なくさせていた。 

 

***

 

屋上に通じる重い扉を開けると、僅かに紅く染まり始めた空が視界へ飛び込んできた。そして手すりにもたれながらにたたずむ少女の姿も。

「深紅、お待たせ!」

その背中が酷く小さく、儚いものに感じられ綾は技と大きな声を出した。
少女がゆっくりと振り返る。
もともと色が白い深紅だが、今日は何時もより青ざめた顔色をしているように感じられる。

「・・・・・・綾ちゃん」

その呼び方に、綾は彼女が何か不安を抱いているだろう事を悟った。綾と深紅はいわゆる幼馴染の関係にある。また、父親が『高倉』の家に養子に出た為に姓は違うが、深紅の母親の深雪と父親の治昭が姉弟であるという従姉妹同士という間柄でもある。幼い頃はお互いを「ちゃん」付けで呼び合っていたのだが、歳を重ねた今は人前以外でその呼び方をする事はなくなっていた。だが時折、深紅の精神が不安定な時や、何か大きな問題を抱えていたりしたときはつい子供の頃の呼び方が出てしまうのだ。

「深紅、何かあったの?」
「綾ちゃん・・・・・・・兄さんから何か連絡もらってない? おじさんとかおばさんとか・・・、何か聞いてない?」

兄さん、という単語に綾は眉根をよせた。
深紅が兄さんと呼ぶのはただ一人。

雛咲真冬

深紅のたった一人の兄であり、そしてたった一人の家族である人物だ。

「真冬さん、もしかしてまだ戻ってきてないの?」

綾の言葉に耐えるように、深紅はぎゅっと手を握り締めた。返事は無かったが、僅かに震えている深紅の様子には自分の問いが肯定されたのを知る。

「そんな・・・だってもう二週間になるのに?」

綾が真冬の恩氏であり知人でもあった高峰準星が取材の際に行方不明になったと聞いたのが4ヶ月前のこと。必死の捜索にも関わらず、準星はおろか同行した編集と秘書の行方は知れず、ただ時間だけが過ぎていた。誰の目にも諦めの感情が宿り始め、もう彼らは生きてはいないだろう、と捜索が打ち切られる中、真冬だけは諦めなかった。ジャーナリストとしての情報網をいかし、準星の残したメモ等を手がかりに探した結果、遂に、彼が向かったと思われる場所を発見した。

「確か・・・東北の何とかって家に行くって言ってたよね? ひょっとして、連絡とかそれ以来無かったりする?」

綾の問いに深紅はコクンと小さく頷いた。

「・・・・・・・・・・」

準星の行き先を突き止めた、と深紅の下へ真冬から連絡が来たのが丁度二週間前。不在勝ちになっていた真冬が漸くこれで家に帰ってくると、嬉しそうに言っていた深紅の姿が綾の脳裏に浮かぶ。

「・・・・・今まで兄さんが連絡くれなくなる事なんて無かったから。どんなに遅くなっても、二日に一度は電話をしてくれてたんだよ・・・・・・」

深紅の言葉に綾は頷いた。深紅にとってもそうだが、真冬にとっても彼女はかけがえの無い肉親だ。綾は真冬が深紅をどれだけ大切に思っているか知っていた。中々周囲と打ち解けずにいる深紅を何時も心配し、支えてきた彼が彼女を不安にさせるような真似をするはずがない。

「警察とかに言った? もしかしたら怪我とかして、動けないって可能性もあるかもしれないし・・・?」
「・・・・・・警察には言ったけど、一週間ぐらいじゃ失踪者として扱われないって。後、兄さんの友達の天倉さんとか、麻生さんに聞いてみたけど、やっぱり連絡行ってないって言われて」

「綾ちゃん・・・どうしよう・・・・・」、ととうとう深紅の瞳からポロポロと涙がこぼれてくる。

「深紅、深紅、落ち着いて。大丈夫だよ、真冬さんだったら大丈夫だって。ほら、高峰さんとかずっと行方不明だったわけだし、きっと病院とかに付き添って忙しいんだって」

何とか深紅を宥めようと綾は思いつく限りの事を言ってみるが、それでも深紅はフルフルと頭を横に振った。

「・・・・夢、見たの」

ポツリ、と深紅が呟いた。

「夢?」
「兄さんが・・・大きな屋敷に入っていく夢。周りは真っ暗で、あたし怖くって兄さんに行かないでって必死で呼んだの。でも兄さんどんどん中にはいっていっちゃって・・・・」
「深紅・・・・」
「あたしも兄さんの後を追ったわ。でも兄さん何処にもいなかった・・・・・・。屋敷の中は荒れ果てていて、人の気配が全くしないの。でも・・・・・・”ナニカ”がいるのは解った。ううん、”ナニカ”で溢れていた!! それが兄さんを・・・兄さんをどんどん飲み込んでいくの・・・・」
「深紅それは夢だって! 大丈夫、真冬さんなら大丈夫だから!!」

必死で深紅に「それは夢なのだから」と言いながら、綾自身も言いようの無い不安を感じ始めていた。

深紅の夢は”当たる”のだ。
一般的に正夢と呼ばれるもの。それは深紅自身の事であったり、他者の事であったりと様々だが、何時もピタリと本人しか知らないような事を言い当てていた。

”霊感”というのだろうか?
”アリエナイモノ”を見る力。

深紅はそれが幼い頃から強かった。真冬も深紅ほどではないが霊感がある。恐らく二人の母親である深雪からの血なのであろう。雛咲の家は霊力が強い者が生まれやすい。そしてそれはの父親である治昭に、そして綾にもいえる事だった。だが治昭は深雪ほど力が強くなく、今では殆ど見る事が出来ないらしいが。

「とにかく・・・、今日お父さんに話してみるから。それからまた色々考えよう、ね?」

綾の言葉に深紅は小さくコクンと頷く。不安を口にしたことで少し落ち着いたのか、涙は止まっていた。だがその小さな肩は未だフルフルと震え、痛々しい雰囲気を感じさせた。

とりあえず今日はもう部活どころではない、と手早く荷物をまとめ、二人して帰宅の途につく。とぼとぼと二人して並んで歩くが、足取りは重く中々 先に進まない。憂鬱になる気分の中、久しぶりに見たせいかもしれない、夕日がやけに紅く感じられた。


***
 

夢を見た。
山深い、木々の鬱蒼と茂る森の中。
その屋敷は有った。

『誰・・・・?』

誰かが屋敷の前に立っていた。

『綾・・・・』
『え?』

女性がゆっくりとの方を向く。何処か儚げな雰囲気を持った女性だった。彼女が今時珍しい和服を纏っているのもそう見えてしまう要因なのかもしれない。綾と女性の瞳が合った瞬間、ふわり、と切なげな、けれど嬉しそうな笑みを彼女は浮かべる。

『?』

その笑みの意味が解らなくて、綾は戸惑いの感情を抱く。彼女に見覚えなどない。誰かを間違えられているのだろうか、と綾が口を開きかけた時。

『綾・・・早く』

彼女の方が早く言葉を発した。

『早く、来て・・・・。でないと、間に合わなくなる・・・・・・・』
『?』
『早く・・・・深紅と一緒に』
『あの・・・貴女は? それに何処に来いって言うんですか?』

そう言うと、女性はゆっくりと後方に佇む屋敷を指差した。

『氷室の家・・・・』
『氷室?』

何処かで聞いた覚えがあるが、思い出せない。

『早く・・・・・引き裂かれてしまう前に・・・・・』
『あのっ!!』

がもっと良く聞こうと身を乗り出した。
だが唐突に視界がぐにゃり、と歪む。

『あのっ、ちょっと!!』
『・・・・・・引き裂かれてしまう・・・・・・・縄が絡みつく・・・・・・・早く・・・・・・・・』
『待って!!』

手を伸ばす。
だが間に合わない。
視界が真っ白に染まった!!

「!!」

はっと目が覚めた。薄ぼんやりと周囲の様が視界に入ってくる。見慣れた自分の部屋ではない。シンプルな、あまり人の手が加えられた様子の無い部屋。ベットから身を起こし、綾は周囲を見回した。

「ああ、そうか」、と漸くここが深紅の家だという事を思い出した。帰途についたものの、深紅を一人にしておくのが心苦しく、家にこないか、と誘ったのだ。深紅と真冬の母親である深雪が亡くなった後、まだ成人前であった二人を治昭が引き取 った。その後、真冬が成人し働き始めるまで、綾の家で暮らしていた。今でも時々、深紅は真冬が取材で家を空ける時など間に家に泊まりに来る。だが、真冬から連絡が入るかもしれない、と深紅は自宅に帰る事を望み。ならば、と綾が深紅の家に泊まることにしたのだった。

父親はまだ帰っていなかったが、母親に深紅の家に泊まる事、真冬がまだ帰っていないという事を伝えた。母の比奈は娘の言葉に驚いたものの、警察や病院へと連絡を入れてくれるという返事を返してくれた。父も母も、ずっと雛咲兄弟の事を気にかけていた。姉の子供だから、というわけではない。”同じ痛み”を知る者として、手助けをしてやりたいという気持ちがあるのだろう。

「ふうっ・・・」とはため息を吐いた。時計を見ると、まだ4時を回ったばかりだ。可笑しな夢をみてしまったから、何か疲れた気がする。できればもう少し眠りたい、と瞼を閉じようとした時だった。


「きゃあああああっ・・・・!!」

突然深紅の部屋から悲鳴が聞こえた。

「深紅っ!?」

綾は飛び起きると深紅の部屋へと向かった。

「あああ・・・兄さんっ、兄さん・・・・・!!」
「深紅、深紅どうしたの、落ち着いて!!」

飛び込むように深紅の部屋に入ると、深紅はベットの上で体を抱え震えていた。兄さん、兄さんと呟きながら時折何かを否定するかのように、首が左右に振られる。

「綾・・・ちゃん・・・・・」
「深紅、どうしたの?怖い夢を見た? 大丈夫、夢だよ、全部夢だって」
「綾ちゃん・・・・・・」

ポロポロと深紅の瞳から涙がこぼれる。

「兄さんが・・・・消えちゃうの・・・・・・・・」

深紅の腕でがすがり付くようにに伸びてくる。それを優しく受け止めながら、綾は「夢だよ」と何度も言い聞かせた。
だが深紅はフルフルと首を横に振って否定する。

「何処かの大きなお屋敷・・・・兄さんが其処に入っていくの・・・・・・」
「夢で見たっていう?」

コクリと深紅は頷いた。

屋敷の中なのだろう、真冬は長い廊下を歩いていたという。
其処は暗く、物が散乱し床板も所々朽ちかけていた。

「兄さん・・・・母さんのカメラを持ってた」

カメラ、という単語に綾は一瞬反応するが、そのまま深紅の言葉の続きを待った。

「フラッシュの光で、辺りが一瞬見えたの。何処を見ても荒れ果ててて、暗くて怖かった。”ナニカ”の気配もいっぱいして・・・。あたし兄さんに逃げてって何度も叫んだ、でも兄さん気づいてくれなかった・・・。怖くて怖くて・・・・その内あれが・・・・・・・」

再び深紅の体が震えだす。綾は落ち着かせようと、その細い体をぎゅっと抱きしめた。

「手が何本も壁から伸びてきたわ・・・・兄さんに向かって・・・・・・。兄さん逃げたけど、逃げたけど・・・・・」
「深紅、大丈夫。大丈夫だから、ね、落ち着いて」

再び泣きだした深紅を何とか落ち着かせようと、綾は必死で深紅を宥める。
だが、その時気づいてしまった。

「・・・・深紅、その手?」
「・・・・え?」

気づいてないのか。
綾は自分の腕を掴んでいた深紅の手を取り、彼女に向けた。

「これ・・・っ!!」
「痛く・・・ないの?」

フルフルと深紅の頭が振られる。深紅の右手には、紅く縄のようなもので絞められた痕がついていた・・・・。

わけが解らないまま、とにかく気持ちを落ち着かせようと綾は台所へと向かった。冷蔵庫から牛乳を取り出し、人肌ぐらいまで温める。牛乳の香りにほっとしながら、それをカップに注ぐと、急いで深紅の部屋へと戻る。

「深紅・・・?」

だが室内に深紅の姿は無い。何処へ行ったのか、と怪訝に思っていたところへ隣の真冬の部屋から何か物音が聞こえてきた。

「深紅、ここに居るの?」

真冬の部屋へ行くと、深紅が机の上で何やらゴソゴソ行っていた。メモ用紙だろう、紙切れに視線を走らせながら同時に深紅の手がせわしなく動く。

「あった・・・・」
「深紅?」

深紅が一枚の紙を取り出した。

「これっ、兄さんの向かった場所!」

深紅がに見せた紙片。
どくんっ、と綾の鼓動が跳ねる。
そこには『氷室邸』、という文字書かれていた。

『氷室の家・・・・』

夢の中の女性の言葉が浮かぶ。

「・・・・ここに、真冬さんが?」
「間違いないわ! 綾ちゃん、あたし行ってくる!」
「え?」

深紅の言葉には戸惑いの声を上げた。

「行くって・・・ここに?」
「兄さんを探さないと・・・。早くしないと手遅れになる!!」

綾の瞳と深紅の瞳が絡み合う。先ほどとの怯えた様子が嘘のようだ。深紅の瞳には、強い光と明確な決意の色が浮かんでいる。儚げに見えるが、深紅もここぞという時は強い。困難に出会っても、立ち向かえる強さがある。そして一度言い出したら決して曲げない頑固なところがあることも綾は知っていた。

「詳しい場所とか・・・わかるの?」
「多分、兄さんのメモをきちんと整理すれば・・・」

深紅の言葉には頷いた。

「解った。深紅はそれをやってて。あたしはそれまで必要なものを整えるから」

綾の言葉に深紅は大きく目を見開いた。

「・・・・・一緒に行ってくれるの?」
「そんなわけ解らないところに、深紅一人で行かせるわけにはいかないでしょう。まずは、とりあえずうちの両親にきちんと行き先を報告しないとね」

自分達まで行方不明になったら、探してもらえなくなるし、と言って笑うに深紅も漸く笑みを浮かべた。


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目指せキャラクター救済! 公式で救いがない分頑張って書くつもりです!あ、ちなみに管理人は立花双子が好きです。
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