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3-4

「へぇ……どこら辺にいたんですか?」

エルルゥが少女らしい好奇心から問いかけてくる。だがアマネは笑ってその問いを受け流した。
語るには昔すぎるし、余り思い出したくもない記憶だったからだ。

だがテオロにとってはそれよりも、今まで自分達が使ってきた薬のもう一方の一面を知った事の方が気になったらしい。今はまだそんな兆候は無い畑を見まわしながら、ハクオロに問いかける。

「それにしてもアンチャン、この薬って虫がつきやすくなるのか?」
「ええ、でも気をつけていますから。今は大丈夫ですよ。ただ、その内虫を寄せ付けない薬もまいてやらないといけなくなるかもしれませんが」
「ふぅん・・・・。俺何かは難しい事は分んねえけどな、でも全く良いことばかりじゃねえんだな」

ハクオロの答えにテオロは考え深げに頷いた。他の者も同じようにうんうん、と首を縦に振っている。

「・・・・何でも過ぎすぎると、毒にしかななりませんからね。例え最初がどんなに良くても」

神妙な言葉に誰もが言葉を無くす。先ほどまであんなに明るかった雰囲気が一気に冷たいものに変化してしまっていた。

「あ、でもこれ自体が悪いというわけではないんですよ」

自分の放った言葉がその原因となっているため、アマネは慌ててそれを払拭しようと言葉を紡ぐ。

「使いすぎなければ、というだけであってこれはとても良い薬なんです。収穫を倍にしてくれますし、土地を豊かにしてくれる。モロロだって、他の作物だってもっと採れるようになりますし!」

現に今もそれほど虫が付いていないのは、ハクオロがきちんと対処しているからだろう、とアマネが言葉を紡げばテオロも「ああ、責めてるわけじゃないんだ」と元の穏やかな笑みを浮かべながら言葉を返してきた。
だが、その言葉にアマネが安堵の表情を浮かべる暇もなく、ソポクがテオロの耳を強く引っ張り上げた。

「ほら、あんたが似合わない真面目な物言いなんかするから、この子に要らない不安をもたせちまっただろ」
「か、母ちゃん、いたいっての!」

とがった耳を掴み上げられてテオロが悲鳴に近い声を上げる。だがソポクはそれに構わず、彼の耳を掴んだまま、アマネの方を向くと「すまないね家の宿六が紛らわしい事を言って」、と謝罪の言葉を口にした。

「その薬が悪いって言ってるんじゃないんだよ。あたしらだって、その薬がどんなに役に立つものなのかもう解ってる。もう使わない、何て事も言えない。ただね、ちゃんと知っておきたいんだ。良い面ばかりじゃなく、悪い面もね」

そう言ったソポクの言葉にテオロもうんうん、と勢いよく頷いた。

「そうだぜ、ずっと無理だと諦めていた畑が成功したのはアンチャンと、この薬のおかげだからな。けど、だからこそこのままそれを維持したい、って思ってる。お前らだってそうだろ?」

そう周囲の者に問いかければ、ウーもヤーもダーも皆一様に頷いた。

「だからよ、全部知っておきたいって思っただけだ。どうすれば良いのか、どうすればそれができるのかな」

今でこそこの畑のおかげで食糧の備蓄も可能になったが、それ以前は食べるのに精一杯でとてもそれどころではなかった。モロロの収穫量もまばらで、十分な食糧も手に入らない年が続き、なのに税収は年々重くなって村人たちの生活を圧迫する。

それでもトゥスクルの采配によって、これまでは何とかやってこれた。だが彼女ももう高齢、何時までも頼っている事など出来るはずもない。
口にこそ出さなかったが、皆抱いていた先の見えない不安。けれどハクオロと彼がもたらした知識によって、状況は一変した。
畑は収穫物で満ち、食糧庫には備蓄もできた。食糧をめぐって頭を悩ます事も無くなった。今更以前の状態に戻す事は出来ない。

けれど、ハクオロは村に受け入れられているとはいえ、やはり余所者なのだ。今は記憶を無くしてここに留まってくれてはいるが、何時記憶が戻り、この村を立ち去るかもしれないという思いもある。

ならきちんと知っておきたいと思う。
良い面も、悪い面もそれぞれを全て。

最悪、トゥスクルやハクオロがいなくなった後、自分達の力だけできちんとやっていけるように。
言葉にしなかったけれど、エルルゥはそんな村人達の隠された思いを感じ取ったのか、少し悲しげな表情を浮かべた。

「・・・・すみません、もっと早くに説明しておくべきでしたね」

悪い事を先に教えてしまうと、躊躇が生まれてしまうと考えてのことだった。ならそれが齎す結果を先に見せてからの方が良いと考えての事だったのだが、彼らの喜びに水を差したく無くて、つい言いそびれていた。

「な~に、良いって事よ。ま、物事良い時も有れば悪い時もあるってのは当たり前のことなんだからな」

だーはっはっは!!、と豪快に笑いだしたテオロにソポクが呆れたように溜息をついた。「そんな真面目な事考えて何ていないくせに」、とその表情が語っている。

「ま、だけどさ、これからはなるべく初めっから言うようにしてくれや。アンチャンの事を信じてないわけじゃなくてさ、アンチャンなら絶対に悪いようにしないって解ってるからさ」

再度豪快に笑いだしたテオロにつられた様に、ソポクや他の面々もうんうん、と頷いて笑い出す。見ればハクオロの表情も穏やかな笑みを浮かべていた。いつの間にか、険悪な雰囲気は消えていた。

その笑みを見つめながら、アマネはハクオロがこの村へ受け入れられた事に喜びながら、村人達の強さに感嘆たる思いを抱いていた。
今まで"彼"と契約した人間は決して悪い面に意識を向けようとはしなかった。ただ求めるばかりで、父もまた、望まれるまま与えるばかりだった。

与える事が悪いわけではないけれど、求めすぎ、とどまる事を忘れた者を待っているのはいつだって悲惨な結末だけだ。そうやって自滅した者、させられた者をアマネは数多く見てきた。
記憶が無くとも知識は失っていない父は、ここでも求められるままに人の望みを叶え続けていたようだけれど。けれどこの村の者たちはそれを良しとせず、与えられた事を自分のものにしつつ、更なる高みを望もうとしている。父に求め続けるのではなく、自分達の手で。

自然とアマネの口元に笑みが浮かんでいた。
彼が望むもの、そのもう一つを手に入れる日はそう遠くない日かもしれない。そんな希望的観測がアマネの中に浮かぶ。

目の前には仲睦まじげにモロロを譲り合う、ハクオロとエルルゥの姿があった。けれど横からそっと伸びてきた小さな手がそのモロロを取ってしまう。途端聞こえるエルルゥの怒った甲高い声と、アルルゥののんびりした声。

笑い声が満ちる。
ずっとそれが続けば良いと、アマネは願った。

あとがき
良いことばかりではないのです。
ところでこれ、夢小説ですよね…。珍獣の登場はまだでしょうか、という声が聞こえてきそうなのですが? 次です、たぶん。次にはきっと。
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