FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

4-1 神様との恋

「ん・・・・?」

ヤマウラの里にハクオロと供に滞在してから、もう直ぐ年が変わろうとしていた。
藩主の無理な税の搾取、ユズハの病と何度か事件は有ったものの、一番の問題であった食糧の供給はハクオロの気転で上手く運び、それ以降は特に大きな問題も無く穏やかな日が流れていた。少なくとも、ヤマウラの里の中では。

「どうかしたの、アルルゥ?」

ウォプタル(馬) の背に供に跨りながら、きょろきょろと突然辺りを見回し始めた少女にアマネは訝しげな表情を浮かべながら問いかけた。
アマネの腕の中にすっぽりと納まってはいるものの、元々バランスの悪い場所に供に座っているのだ。少し大きく身体を動かせば、地面に落ちてしまうだろう。だがアルルゥはアマネの諌めにもきょろきょろと、身体を動かす事をやめなかった。

「・・・・・聞こえる」
「え?」

「何が?」、と聞き返す間もなくアルルゥはぴょんっ、とウォプタル(馬) の背中から飛び立ってしまう。「待ちなさい!」と言ったもののアルルゥが飛び降りたショックでウォプタル(馬) が暴れてしまい、それを静めるのに気を取られ彼女が森の中へ書け去って行くのをただ見つめる事しか出来なかった。

「ああ、もうっ!!」

一体何が聞こえたというのだ、と毒づきながら何とかウォプタル(馬) を静めたアマネは、傍の木に彼を繋ぎ自分も森の中へと入っていった。

 
 
*** 

 

「ったく、付いてませんでしたね、大将」

ボリボリと頭を掻きながら、大柄の男が不満げに呟いた。
彼の前に居るのは珍しい白い毛並みのウォプタル(馬) と、そのウォプタル(馬) の主であり自分の主でもある男。

「駄目ですね。やはり騎乗は難しいでしょう」

屈みこんでいた場所から立ち上がると、青年は静かに言った。
其の言葉に男-クロウ-が今まで青年が屈みこんでいた場所に目をやると、白いウォプタル(馬) の足は痛々しいほど鮮やかな赤い鮮血に染まっており、血止めに当てた布の上にもそれは更に広がっていた。

「ちっ、全く誰がこんな場所に罠なんて仕掛けたんだか」

普段、軍の演習地として使用されている森は、街からも遠く離れており人は滅多に立ち入らない場所のはずだった。それに、そもそもこの場所での狩りは禁じられているはずである。忌々しげに穿き捨てるクロウとは対照的に、彼の主である男-ベナウィ-は「解りません」、と静かに言った。

「いずれにしろ、今はそれを問うている時ではないでしょう」
「まぁ、そうっすけどね・・・。ですがどうしやす、俺のウォプタル(馬) に乗って行きますかい?」

そう言ってクロウは自分のウォプタル(馬) を指差したが、ベナウィはゆっくりと首を横に降った。

「いえ、それは無理でしょうね」

ベナウィとて決して小柄とはいえない、寧ろ長身と言って良いくらいの体形をしているけれど、クロウはその彼よりも更に大きな身体の持ち主だ。当然彼が乗るウォプタル(馬) もそれに合わせたものとなる。乗れない事はないであろうが、酷く乗りにくいだろうし、何よりも彼がクロウのウォプタル(馬) に乗ってしまったら、今度はクロウが乗る物がなくなってしまう。
それに自分の愛馬-シシェ-をここに残していくのも忍びなかった。クロウもベナウィのそんな気持ちがわかるのだろう、「でしょうねぇ・・・・」と困ったように呟いた。

「ですが、こっからじゃ元の場所に戻るにしても遠いし今日中に皇都につけなくなっちまいますぜ」

かと言って、歩いていくにも距離が有りすぎる。丁度、最も都合の悪い場所で運悪く、罠にかかってしまったわけだ。
クロウの口振りに自然と苛立ちが混じり始める。ベナウィも表情には出さないが、内心はかなり焦っていた。
早目に出てきたため、まだ時間的な余裕はあるが、それも無限ではない。何よりも、これから会おうとしている相手は、大変気まぐれで自分の思いつきや気分次第でコロコロと予定を変える様な人物 だ。本の僅かでも遅れれば直ぐ様激昂し、こちらの言い分など一切聞いてはくれないだろう。
だからこそ、何が起こっても対処できるように早めに出てきたというのに、こんな所で足止めを喰らうとは――――――。

「ったく、せめて民家でもあれば、ウォプタル(馬) の一匹くらい借りれたってえのに・・・・・・」

人里離れているからこそ、演習地として選ばれたのに今はそれが酷く疎ましく感じられる。
唯一の希望は、誰かウォプタル(馬) を連れた者が通りかかってくれる事ぐらいだが、それも殆ど可能性が無いという事が解っていた。
街へと向かう街道はこの森を抜けた先にあるため、態々道を外れてこんな森の中へ来る者が居るはずもないのだから。

「ん~~~」

そう、いない筈だった。
普通なら。

「・・・・・・・・・・・・・大将、誰何すか、そのちっこい嬢ちゃんは?」
「さぁ?」

何時の間に傍に来ていたのだろう、ベナウィの傍らに10歳くらいの少女が座りこんでいた。ぴょこぴょこと黒い髪の間から薄茶色の耳が動いている。
どうやら"普通の"少女の様だが、それならば何故こんな小さな子がこんな場所に一人で居るのだろうか。そんな同じ疑問が二人の頭の中によぎるが、件の少女はどうやら彼らには全く意識を向けていないようで、大きな黒い瞳は真っ直ぐに目の前のウォプタル(馬) -シシェ-へ向けられていた。

「ん~~、痛い?」
見た限り、10か11歳くらいだろうか。年齢の割りには幼げな口調で少女はシシェに問いかける。
「クルル・・・」と、其の声に答えるようにシシェが小さく鳴いた。

「ん」

まるで会話をしている様に少女はごく自然な動作で其の声に頷く。同時にその白い肌に触れようと小さな手を伸ばした。だが流石にそれは危険だと判断したベナウィによって止められる。

「ん?」

腕を捕まれ、大きな赤茶色の瞳が「何?」とでも言うようにベナウィを真っ直ぐ見つめてきた。

「無闇にウォプタル(馬) に手を出してはいけませんよ」

怪我をしてからでは遅いのだ、と咎めるけれど少女は「ん~~」と通じているのかいないのか解らない言葉を出すだけだった。

「そうですぜ、譲ちゃん。ウォプタル(馬) には気の荒い奴も多いですからね、いきなり噛み付かれちまう事だって有るんすよ」

幾分かはベナウィよりも子供なれしているクロウが助け舟を出そうとするが、少女はやはり「ん~」と唸るばかりで一向に会話が進まない。
困ったようにクロウはボリボリと頭を掻き、どうするべきかと自分の上司へと視線を向けた。その時再びシシェが「クルル」と小さな声で鳴いた。

「大丈夫」

やっと少女が会話らしい言葉を口にする。けれどそれはベナウィやクロウにではなく、あくまでシシェに対して言った言葉だった。
言葉が通じないわけではないのに、会話が出来ない。更に厄介な展開になってきた事に、クロウもベナウィもさてどうしたものか、と顔を見合わせる。だがそこでもう一度、少女は彼らにもはっきりと解る言葉を口に出した。

「大丈夫、お姉ちゃん来る。だから、大丈夫」

そして其の声に被るように、「アルルゥ!」と甲高い声が道の先から聞こえてきたのだった。

 

あとがき
アルルゥがベナウィと普通に話しているのは、やはり「珍獣」ゆえでしょう。
スポンサーサイト
プロフィール

たつやん

  • Author:たつやん
  • FC2ブログへようこそ!
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
12  07  02  11  09  08  07  06  05  04  02 
cloverclock
カテゴリー
Yggdrasil
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。