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3.式外の神の片思い

翌日からアマネのヤマユラの里での生活が始まった。
村の者達は驚くほど気さくで、アマネを当たり前の様にすんなりと受け入れた。トゥスクルが長を務めているからだろうか、ありがちな閉鎖的なところがヤマウラの里には全く感じられ無い。

「・・・・・・・良い村ですね、ここは」

村を案内してくれる、と言って供に出てきたアルルゥにそう語りかけると、「ん」と簡単だがどこか誇らしげな感情を含んだ声が返ってきた。
アルルゥ、彼女もまたトゥスクルの孫でミコトと父の血を引く娘だ。エルルゥほどではないけれど、彼女もミコトの面影がある。ちょろちょろと彼女の足元を歩くのは、森の主と呼ばれる白い獣。気性が荒く、子供とて懐かせるのは難しいはずなのにアルルゥの足元に甘えるように擦り寄る様は大きさとも相まってまるで猫の子のようだった。

「ん~、ムックル歩きにくい・・・・」
「ミャウ~~」
「だ~め、自分で歩くの。抱っこは重い」

まるで本当に会話をしている様にぽんぽんと交差する二人の声。「ミャ~」、と悲しげに"泣いた"白い獣は其の言葉に益々身体をアルルゥの足に摺り寄せる。
あれでは歩きにくいだろうと、アマネがムックルに手を伸ばすとアルルゥからすかさず「駄目」と声がかかった。

「ムックル、最近全然歩かない。抱っこ重い、だから歩かせるの」
「・・・・・・・・そうなのですか?」
「ん」

こっくりとアマネに頷いて、ムックルにも「ね」、と言い聞かせる。「ミャウ~」とまた悲しげな声が白い獣の口からもれ出た。
聞いた話ではムックルは荒ぶり、村人に害をなした為退治された森の主の子供なのだという。本来なら殺されなければならなかった所をアルルゥが親代わりとなる、という条件でこうして村の中にいるそうなのだが。

「アルルゥとムックルは本当に親子みたいですね」
「ん~~、アルルゥはムックルのお母さん。約束したから」

誰と、とは聞かない。きっとそれはアルルゥにも解らないことだろう。
彼女は声を聞いた、森の主の最後の願いを。だからアルルゥとムックルは供にいる。そしてそれこそが、彼女がミコトの血を引いているという証でもあった。
彼女もまた、獣と心を通わせる力を持っていた。アマネが育てた小さな子供にも有った同じ力が。

「こっち」

ぐい、と腕を引かれた方を向けば、前方に見えてきたのは一面に広がった畑だった。どうやら今度はこの畑の事を教えてくれるらしい。
歳の頃にしては口数も少なく、また必要最低限の言葉しか口にしないアルルゥは案内人としては不向きだろうと、本当はエルルゥが案内してくれるはずだったのだが、薬師見習いである彼女には行わなければならない事が沢山あり、それに何よりもアルルゥが自分からアマネを案内したいと言ったのだ。その時のエルルゥとハクオロの驚いた表情を思い出して、思わずアマネの口がほころんだ。

「ん~?」
「何でもないですよ、今度はここを案内してくれるの?」
「ん」

彼女が人見知りが激しく、初対面の人間には滅多に懐こうとしない、と聞いたのは家を出る直前だった。実際、歩き始めてもアルルゥはどんどん先に行ってしまい歩調が合わさる事は無かったし、会話も「こっち」や「あっち」と言った完結な物ばかりできちんと繋がった会話をしたのは数える程度でしかない。それでも嫌われている、と感じないのは彼女が自分に触れるのを躊躇わないからだろう。それに慣れれば、ぶっきらぼうに聞こえる口調にもちゃんと感情が篭もっている事が解る。

「この葉は、モロロですか?」
「ん」

目の前に広がるのは一面に緑の葉を茂らせた畑だった。
植えられている葉は、モロロのものだろう。元々痩せた地でも生える強い植物。アマネも今朝エルルゥの作ったモロロ汁をごちそうになった。
だがアマネの目を引いたのは明らかに周りの土とは色や質感が違う土と、きちんと整えられた畑の様子だった。言っては失礼かもしれないが、これまで村の中で見た畑とは明らかに様相が違う。

「おと~さ~ん!!」

とてとてと前を歩いていたアルルゥの足音が早くなる。見れば畑の真ん中で、大柄な男と話しているのはアルルゥと、そしてアマネの父親である男。
ぽすっ、と軽い音が響きアルルゥがハクオロの足にしがみ付いた。

「おっと」

アルルゥの軽い身体を受け止めると、途端ハクオロの表情が綻び喜色の色を浮かべる。殆どが仮面に隠れてはいるものの、口元や目元から其の表情を読むことは容易い。
アルルゥにも其の事が解っているのか、表情だけでなく尻尾がぴょこぴょこと動き喜びを表に出す。

「おと~さん、案内してきた」
「そうか、偉いぞアルルゥ」
「んふ~♪」

頭を撫でられてアルルゥの尻尾が更にブンブンと左右に振られる。 ムックルも嬉しげにハクオロの足元にじゃれ付いている。
まるで本当の親子のような光景。
父親と娘がただ、お互いを思いあいながら供に居る。そんな当たり前の、けれど"彼が"ずっと願っていた光景。

「やぁ、村の中はどうだったかな。何か不都合な事とかは有ったかい?」

ただぼんやりと、そんな"当たり前"の光景を見ていたアマネは、其の声が自分にかけられたものだと気付くのに、少し時間がかかってしまった。

「え、あ、はい。皆さん、とても良くして下さいました」

「とても良い村ですね」、と続けるとハクオロはまるで自分の事を褒められた様に嬉しげに微笑んだ。
どれくらいぶりだろう、彼のこんな穏やかな微笑みを見るのは。
同じ娘とはいえ、自分には決してこんな風に笑いかけてはくれなかった。
彼が自分に向けてくるのは、何時だって苦しそうで、そして悲しそうな顔ばかりだった――――――。

「よっ! あんたか、村長のお師匠さんってえのは?」
「はい?」

大柄な、斧を背に担いだ男がアマネに話しかけてきた。
初対面だというのに、随分と砕けた口調に一瞬面食らう。慣れなれしいと感じるけれど、不快さを感じさせないのは彼の纏う雰囲気のせいだろう。
大らかそうな明るい笑みを浮かべた表情は、豪胆ではあるが同時に優しさも感じさせる。父親、というより"親父"とでも言ったほうがしっくりくるかもしれない。彼はハクオロとはまた違った意味で人を 惹きつける雰囲気を持った男だ。イライラさせられる事もあるだろうが憎めない、惹きつけられずにはいられない要素を持った人間。

「親父さん、お師匠じゃなくてそのお孫さんですよ」

ハクオロが苦笑を浮かべながら訂正するが、"親父"と呼ばれた男は「細かい事気にすんなよ」と笑うばかりで情報を修正する気は全く無いようだった。
というより、やはり"親父"と呼ばれているのか、とそちらの方に妙に納得してしまう。

「こーら、あんた好き勝手言ってんじゃないよ! 其の調子で村中に言いまくったらこの子が迷惑する事になるんだからね!」

突然割り込んできた女性の声に驚いて振り向くと、金の髪を軽く上で結わえた20代半ばぐらいの女性が怒り顔でこちらを-テオロを-睨んでいる。
其の後ろでエルルゥが困ったような笑みを浮かべていた。

「か、母ちゃん!」

何処か怯えた様子でテオロが叫んだ。其の間に金色の髪の女性はずんずんとこちらへ近づいてくる。

「全く、このとうへんぼくは。何時までたっても、機微ってもんをわかろうとしないんだから」
「か、母ちゃん何だよ、突然! お、俺はだなぁ、見知らぬ村に一人やってきて大変だろうその子を元気付けてやろうとしてだなぁ・・・・」
「アンタがそんな殊勝なこと考えるわけないだろ。どうせ人の話を半分聞いて適当に口にだしたんだろ。ああ、アンタご免ね家の宿六が失礼な事言って」

急に話を降られてきょとん、とした表情を浮かべたアマネに何時の間にか傍にやってきていたエルルゥが苦笑を浮かべながら「何時もああなんですよ」と呟いた。
「ソポク姉さん、ちょっと口は悪いように聞こえるけど厳しいのはテオロさん限定なので安心して下さいね」、と続けられればアマネとしては「そうなの?」と返すしかない。
其の間にソポクとテオロの間では「ああでもない」「こうでもない」と勝手に会話が進んでいる。けれどよくよく見れば、ソポクの口調は厳しいものの、そこにテオロに対する悪意は全く感じられず、寧ろ言葉を口に出す事を楽しんでいるようにさえ見れる。テオロもテオロで、困ったような顔を浮かべながらも彼女との会話を結局は楽しんでいる様子だった。

「・・・・・・何となく、解りました」
「でしょう」

クスクス、とエルルゥが隣で笑う声が聞こえてきた。ハクオロもアルルゥも二人の喧嘩(?)を笑みを浮かべながら見つめていた。
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