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1-5

「お兄様・・・・・・・?」

彼の中で何よりも優先するべき妹の声、途端アマネを締め付けていた力が抜ける。
それより少々後ではあるがハクオロがオボロの腕を掴みアマネの腕から引き離した。

「大丈夫か?」

駆け寄ってきたトゥスクルが直ぐにアマネの腕を診て、折れていない事にほっと息をつく。
だが白い腕にくっきりと残った紅い痕に痛ましげに目を細めながら「すまなかったのう・・・」と小さく謝罪の言葉を口に出した。
彼女のせいではないであろうに、それでも謝罪の言葉を口に出したのはオボロのためであろう。アマネがオボロに対して悪感情を持たないように、とまるで祖母がやんちゃな孫を心配するような。

「気にしていません、大丈夫」

アマネの答えにトゥスクルは再びほっと、息を吐き出した。
其の様子を眺めながら、アマネは変わったものだ、と感心しつつも少しだけ寂しい思いを感じていた。今のトゥスクルは、昔彼女と知り合いであったトゥスクルであるけれど、全く同じ彼女ではない。
長い年月を重ね、精神的にも肉体的にも成熟を遂げた彼女はアマネが知っていた、大人びていたけれどまだまだ幼い部分の多かった少女の面影は何処にも無かった。

「お兄様、どうして・・・・?」

けれど少女の非難めいた声がアマネの意識を"過去"から"現在"へと戻す。

「ユ、ユズハ・・・・・」

見ればオボロがハクオロに腕を捕まれたまま-というより両方とも呆気にとられ、固まっているのだろうが-ユズハに詰め寄られている光景が目に入ってきた。

「どうして、お兄様は怒っているのですか・・・・」
「あ、いや・・・。俺は怒ってなど・・・・」
「・・・・・・嘘です。今のお兄様からはとても怖い感じがします」

怒っているというより悲しんでいるような声だった。ユズハの目ではオボロがアマネに何をしたのか見る事は出来ない。けれど聞こえてきた音から"知る事"は出来る。
アマネの手が自分から離れた瞬間聞こえてきた悲鳴と何時もの兄のものとは違う声。何時もは優しい兄だが、珠にユズハを諌める事もある。けれどあの時の声はそんなレベルのものではなかった。
決して彼女の前では見せない、オボロのもう一つの面。

「ユ、ユズハとにかく落ち着け・・・・・」

彼女の身体は其の心と同じぐらい繊細で、壊れやすい。ほんの少しの感情の揺らぎが影響してしまうほど。
何とか妹を落ち着かせようとするが、そんな兄の言葉に妹は益々悲しげな表情を浮かべる。

「お兄様は・・・・・どうして・・・・・」

けれど最後まで言い終わらない内に熱いものがユズハの胸の内からこみ上げてきて、彼女の声を封じた。
ゴホゴホと激しく咳き込むものの、熱いものは後から後からこみ上げてきて一向に収まってくれない。「ユズハっ!!」と叫ぶ兄の声が聞こえたけれど、それに応える事も出来なかった。口に当てた手が乾いた息と音を幾分かは抑えてくれるけれど、込み上げてくるものを全て押し殺す事はできなかった。

止まって欲しいと願うのに、身体は持ち主であるユズハの言う事をちっとも聞いてくれない。
早く、早く止めないとまた兄に心配をかけてしまう。また何時もの兄ではない兄の声を聞かなければならなくなってしまう。
また、迷惑をかけてしまう。
また・・・・・・

「落ち着いて、大丈夫だから」

ふわりと肩にまわされた、暖かい腕。ほのかに香ってくるのは薬草の香り、嗅ぎ慣れたトゥスクルのものとは少し違う、土の匂いの混じったもっと暖かい香りだった。
ぬくもりが嬉しくて彼女の名前を呼ぼうとするが、口から漏れ出るのは咳の音だけで声と呼べるものでさえなかった。

「大丈夫、大丈夫よ」

それでも何かは彼女に伝わったのかもしれない。肩にまわされた腕が優しく背中をさすってくれる。「ユズハ!」、と傍らから兄の声が聞こえてきた。切羽詰った、悲しげな声。
そんな風に呼んで欲しくないのに、悲しんでもらいたくないのに。なのに今のユズハにはそれを口に出す事が出来ない。

「大丈夫、これを飲んで」

つん、とした薬草の匂いが鼻の近くで感じられた。唇に物が触れる感触、 唇の隙間から冷たい物が本の僅か流れ込んできて、喉の中に落ちた。
冷たい本の僅かな雫、けれどそれが喉の奥から込み上げてくる熱さを静めてくれるような気がして、ユズハは夢中でそれを飲み下す。焦った為に、幾つかは本来入る場所ではない所へ向かってしまい、余計に咳がでてしまったけれど其のたびに優しい声と手が「大丈夫だ」と背中をさすってくれた。
喉に落ちた冷たい雫は其処からユズハの身体の中に巡り、徐々に熱く火照った身体を冷ましていく。
何時しか部屋の中は、最初にここを訪れたときの様な静けさに包まれていた。

【あとがき】
飲ませたのは紫琥珀ではありません。多分。
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