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[ ユリウス→←アリス ]


森の中に1人、私はいた。
ざわざわと風が木々を揺らす。
空を覆う枝葉の間から光が薄らと差し込んではくるものの、周囲はけっして明るいとは言えない。


・・・・・自分は何故こんな所に居るのだろう?


ざわざわと音を立てて揺れる木々の下にアリスは立っていた。
右を見ても左を見ても、あるのは木々の姿だけで建物らしい姿はなく。
かと言って自分が通ってきたかもしれない道の姿も見当たらなかった。

何故こんな所に居るのか、しかもどうやってここに来たのかも解らない。
戻ろうと思うけれど道が見当たらないので、それも叶わない。

けれどそこでふと気付く。

戻る―――――――?

私は、何処へ戻ろうとしていたんだっけ?

真っ先に頭に浮かんだのは家の事だった。
大好きな姉のいる、懐かしい我が家。
良い思い出があるとも、決して居心地が良いとはいえなかった場所なのに。けれど迷子になった時、真っ先に頭に浮かぶのはやはり住み慣れた我が家だった。
けれど直ぐに、それは違うと考え直す。
家には帰りたい。でも帰れない?

帰る事が怖い?

何故こんな事を感じるのだろう。
ざわざわと木々が風で大きく揺れた。
森の中に居るのだから、そんな音が聞こえて当たり前な筈なのに何故だかビクリと体がすくんでしまう。

怖い、怖い、怖い――――――――。
何故こんなに怖く感じるのか?
ここに居るのが怖いのか? それとも家に帰ると思った事が怖いのか?
もしかしたらその両方なのかもしれないけれど、でも今のアリスにはそんな事を判別できる余裕は無く。
後ろも前も、右も左の道も無いただ木々の群れが有るだけの森の中で、ぽつんと1人で佇んでいた。


***


「・・・・・アリス?」

不意に頬に冷たいものが触れた。
頬を滑る固くて冷たい感触は、一般的には決して気持ちが良いとは言えないものだろうけれど、今の自分にとっては酷く安心感を齎してくれるものだった。

「・・・・・・ユリウス?」

視線を上げると直ぐ隣で自分を心配げに見つめる青年の姿あった。
冷たくて固いそれは彼の指だと気付いた瞬間、アリスはもう一度安堵の息を吐き出す。

「・・・嫌な夢でも見たのか?」

嫌な夢?
そうなのだろうか、内容など良く覚えていない。
ただ楽しい内容ではなかったと言う事だけ漠然と感じた。

「そう、なのかな・・・。よく覚えていないわ・・・・・」

そう言うと、ユリウスは呆れたようなため息を一つ吐き出す。

「よく解らない夢で泣いたのか、お前は」

呆れた声を出しながらユリウスは指をするり、と滑らせるるように彼女の頬から離した。
冷たい感触と水の濡れた感触が頬に残り、その時初めてアリスは自分が泣いていた事を悟った。

「・・・・うそ、私泣いてたの?」
「しかもかなり魘されていたな。お陰で私は眠るどころじゃなかった」

その言葉に驚くものの、アリスとしても自分が何故泣いているのかなど全く解らなかった。
なのに理性とは逆に彼女の瞳からは次々に涙が溢れてくる。止めようと指で何度も拭ったけれど、それでも後から後からあふれ出す涙は一行に止まろうとしなかった。

「・・・もうよせ、目が腫れてしまうぞ」

再びユリウスが呆れたように言う。
けれどその中にはアリスに対する気遣いの感情が混じっていた。

「だって、止まらないんだもの・・・・。可笑しいわよ、こんなの・・・」
「止まらないものは仕方ないだろう。・・・・・大体無理に止めようとすることは無いんじゃないか。涙が出ると言う事は、泣きたいことがあるということだろう。一度出し切ってしまった方がすっきりもするんじゃないか?」
「そんな曖昧な・・・・」
「訳の解らない泣き方をしているんだ、曖昧くらいで丁度良いだろう」

そうしてまた彼の指がアリスの頬を撫でる。
けれど常なら乾いている指先が今は僅かに湿っていて。それが自分の涙のせいだとアリスが気付くのは容易かった。

「・・・・本当に何で泣いているのか解らないの・・・」
「そうか」
「でも、泣きたいわけじゃないのよ。でも、何だか不安で怖くて・・・。涙が止まらないの・・・」
「だったら泣けば良い。お前の気が済むまでな」
「だから泣きたいわけじゃ・・・・」

それ以上の言葉は放つ事が出来なかった。
彼の指がアリスの頬から離れた次の瞬間、ユリウスの腕が彼女の頭をすっぽりと抱え込んだから。

「ユ、ユリウスっ!!」
「こうしていれば泣き顔は見れないだろう」
「!!」
「泣きたければ泣け、泣き顔を見られるのが嫌だというのなら見えないようにしていてやるから」
「・・・・・・・・・・・何か、その言い方私が泣きたがっているように聞こえてむかつくんだけど」
「実際泣いている奴が何を言う? ほら、大人しくしていろ。まだ夜は続くんだ、それに私は疲れていて眠い」

気遣ってくれているのに素直ではないユリウスに、アリスは泣きながらもくすり、と小さく笑みを漏らした。

「・・・・そうね、私も眠いわ。何故か泣いてるけど」
「そうだ、私も眠い。一緒のベットに寝ているのだから、腕が当ることもあるだろう。そう考えでもして諦めて寝ることだな」
「・・・・・・・そうね、そうよね。そういう事もあるもんね」

ふわり、とアリスの頭を抱くユリウスの腕にアリスが自分の腕を重ね合わせる。
何故なのかは知らないが、泣いているのは事実なのだから、今はそれを受け入れよう。
自分の意思ではないのだ、少しぐらい泣き顔を見られた所でどうってことはない・・・・筈だ。

未だに涙の溢れる瞳を瞑る。
至近距離にあるユリウスの胸から聞こえてくるのは、自分のものとは違う音。
チッチッチッ、という時計が針を進める音だ。

不思議だ。
初めは怖いと思っていた時計が今は自分をこんなにも安らかな気持ちにしてくれるなんて。
アリスの世界では時計が体の中に入っているなんて人は居ない。自分の中にあるのは心臓で、奏でる音も異なっている。
昔母親に抱かれた時に聞いた音、姉に抱きしめられて聞いた音とそのどちらも自分に安心感を抱かせてくれたけれど。

「・・・・・・・・不思議ね。ユリウスの音はそれ以上に安心するわ」
「?」

顔を覆われているので彼の表情はわからない。けれどきっと疑問を浮かべた表情をしているのだろう。
解りにくいようで解りやすい、それがユリウス・モンレーという男なのだ。
そして、不器用だけども優しい。

「・・・・・・・・ありがとう、ユリウス」

小さく呟いた声は果たして彼に聞こえたか、聞こえなかったのか。
ぴくりとも動かない腕と返事も戻ってこないことに恐らく聞こえなかったのだろう、とアリスはそのまま暗くなっていく意識に身を任せる。
きっと悪夢はもう見ないだろうと確信しながら。



「・・・・・・・居るのだろう、ナイトメア」

腕の中の少女が安らかな寝息を立て始めた頃、ユリウスは自分達以外には誰も居ない部屋の中に呼びかけた。
ゆらり、と部屋の隅から黒い影が立ち上りそれは段々と人の形となる。

「・・・・・・・・・何時出て行こうかと困ってしまったよ。それにしても時計屋にそんな優しい言葉をかけさせるなんて、やっぱり彼女は偉大だね」
「くだらない事を。大体お前のせいだろう」

アリスを起こさないように僅かな動きで身を起こす。
光源が落とされた部屋の中、視線の先に立っているのは銀色の髪を持ち右目を眼帯で隠した青年だった。

「確かにね。でももう術はかけ直しておいた。目が覚めたら彼女はすっかり今の事は忘れてるよ」
「かけるのだったらしっかりやったらどうだ。大体お前の術は何処か何時も抜けているんだ、フォローするこちらの身にもなれ」
「仕方ないだろう。私は忘れさせているだけで、無くしているわけではない。それにこのお嬢さんは元々こういった類の術はかかりにくいタイプでね、ちょっとしたきっかけで綻びが出てしまう」
「きっかけ・・・・・? 夢は貴様の領域だろうが、一体何が・・・・・・」

其処まで言いかけて、ユリウスははた、と気が付いた。
目の前の人物の厄介な性格を。

「お前・・・、まさかまた・・・・」

そのユリウスの言葉を肯定するようにナイトメアはポリポリと頭をかく。
余りの事にユリウスはもう怒りさえ通り越して呆れが湧き上がってきた。

「・・・・・お前、だからあれほど病院に行けと・・・」
「いやぁ、私もまさかこんなに具合が悪くなるとは思っていなくてね。でも大丈夫、もう何時もの状態には戻ったから」
「何時もの状態って、まだ悪いままじゃないか。いい加減に注射が怖いなんて子供みたいな事を言っていないで、注射でも点滴でもしてもらってさっさとその厄介な身体を治せ!」
「嫌だね、私は注射も点滴も病院も嫌いだ! 注射をしない医者がいるなら行っても良い」
「・・・・・・・んな医者がいるかっ! 治療に不可欠な事ならしてもらうのが当然だろう。大体そのせいでアリスの記憶が戻っていたらどうするつもりだったんだ!」
「どうしようもないよ。彼女は全てを思い出して、そして元の世界へ戻る。それだけだ」
「っ!!」

あっさりと言い切ったナイトメアにユリウスは言葉を無くす。

「戻って、この世界の事を忘れて彼女の世界で暮らしていくだろうね」
「随分あっさりと言うんだな・・・。お前は彼女の事を気に入ってたのではないのか?」
「幾ら記憶を封じたって、戻る時には戻ってしまう。この世界のものなんてそんなあやふやなものばかりだからね。まぁ今回は君がきちんとフォローしてくれたみたいだけど。出て行ってもらいたかったんじゃないのかい?」

意地悪な質問だった。
今のユリウスの気持ちを知っていての言葉。
たちの悪い問いかけに、ユリウスの表情が歪む。

「今回だけだ・・・。私には人の記憶をいじるなんて性質の悪い趣味は無い」
「だろうね。それにしても、随分あっさりとかかったものだね。何時もはもう少し抵抗されるんだけど・・・・。だから不意打ちをかけて無防備になった所を何時も狙っているんだ」
「不意打ちって・・・お前一体何時も何をしているんだ!」
「ん~~、そりゃあ抱きついたりとか?」
「ナイトメアっ!!」
「おっと大声出すと彼女がおきてしまうよ。仕方ないだろう、言ったことだけど彼女は術がかかりにくい性質をしているんだ。意志が強くて責任感が強い、ちょっとやそっとの事では弱音を吐かない。こういった人間は厄介なんだよ。自分の中に何でも押し込めて昇華させる事をしない。だから溜まった感情は常に噴出す瞬間を待っている」

ナイトメアの言葉にユリウスが表情を更に歪ませたが彼の言葉は止まらなかった。

「私がしているのは只の記憶の封印だ。そういった感情まで消す事は出来ない。記憶という鍵が無い以上扉が閉まっているだけであって、それを叩く者までいなくなったわけではないんだよ、ユリウス」
「ご大層な言い方はよせ・・・。大体彼女がそれを望むのなら・・・」
「でも、彼女はここに居た方が幸せになれる。元の世界より、このハートの国に居た方がずっとね。だから私もこの弱い身体に鞭打って頑張っているんだよ」
「・・・・・・・頑張るんだったら徹底的にそれこそ死ぬほど頑張れ。安心しろ、時計が壊れても私がちゃんと修理してやる」
「おや酷い事を・・・・。まぁ今回は確かに迷惑をかけたからね、耳に痛い言葉だが受け入れておこう。では、私はそろそろいくよ・・・。これでも役目を持つ身だからね」

そういうとナイトメアは来た時と同様、ぼやけたもやの様な姿になり闇の中へと消えていった。
後に残ったのは部屋に満ちる時計の音と、規則正しく聞こえるアリスの寝息だけだった。

「全く・・・何時も何時も勝手な事を・・・」

だがこの世界の住人で身勝手でない者など居るだろうか。
勿論自分も入れて、だが。
ほうっ、と一つため息をつくと僅かに動いた腕が直ぐ隣で眠るアリスに触れた。
さらさらとした感触は彼女の髪だろうか。僅かに乱れたそれを優しい仕草でそっと掃ってやると、安らかな表情で眠るアリスの顔が薄暗い光量の中浮かび上がる。

悪夢-こう表現しても良いだろう-は見ていない様子にユリウスは知らず安堵の息をはいた。
隣で眠るこの少女がこれほど自分の身の内を占める存在になるとは、誰が想像しただろう。
いや、そもそも自分が他人を気遣うようになるなど思ってもいなかった。

そっと身体を彼女の隣に横たえる。
安らかな寝顔、けれどそこに残る涙の痕をユリウスの指が触れた。
彼女が抱えるものが何なのか、それは自分には解らない。けれど自分以上に他人に無関心無反応な白兎が気遣い、ナイトメアが力を使ってまで封じているそれが決して軽いものではないと言う事だけは容易く想像がついた。

そして、彼女がそれがどんなに重いものであっても逃げようとしないだろうと言う事も容易く想像がつく。
周囲がどんなに逃げて欲しいと望んでも、彼女は自分の思いを貫いてしまう。そういう頑固な性格の持ち主なのだ。
厄介だな、と感じるもののそれもまた彼女の一部なのだから仕方がないとも感じる。

だがその仕方なさのせいで彼女が元の世界に戻る事になったとき、果たして自分は今と同じように仕方ないと考えられるのだろうか?
既に隣に居る事が当たり前のようになってしまった少女。
自分に感情を教え、暖かさと安らかさを与えてくれる少女を、彼女が決めた事だからと自分は笑って送る事が出来るだろうか。

少し前まで出て行ってもらいたいと思っていたのに、随分と勝手な事だ。
けれどその勝手な事を願ってしまうほど変わってしまった、彼女によって変えられた自分が居るのも事実であって。

「全く・・・・お前のせいだからな。私がこんな事を考えるなんて・・・」

そんな理不尽な台詞を呟いて、ユリウスは目を閉じた。
夜の時間はまだ続く。

瞼が視界を遮ると、見えるのはただの暗い闇のみになる。
右も左も、上も下も無い暗い闇のみが彼の回りに広がった。
それでも彼の隣には暖かいぬくもりがあり、規則正しく聞こえてくる寝息が彼女が其処に居ると言う事を教えてくれる。

1人ではないと気付くのがこんなに自分を満たしてくれるものだと、ずっと知らなかった。
何時かは離す、離さなければならないのかもしれないぬくもりだけれど。
今は自分の傍にあるこれを存分に堪能しようと、ユリウスは隣に眠るぬくもりにそっと腕を回した。


【あとがき】 
微妙にユリウスが優しい?
まぁ泣いている子には勝てないって事で。
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