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4.一体俺がなにをしたっ!!

のんびりと道を歩いていた鶏が、その身体からにじみ出るピリピリとした雰囲気に驚き、慌てて道を開けてゆく。 道行く人々も、一目で神託の盾の軍人とわかる様相をした少女が、剣呑な雰囲気をまきちらしながら進む様子に何事かと視線を向けるが、そんなぶしつけな視線に気付かないほどティアは怒っていた。
軍人として感情を律する訓練を受けたとはいえ、ティアも16歳の少女だ。心無い言葉を言われれば傷つくし、何より身体的な事を気にする時期だと言う事もあった。一度までなら我慢も出来よう、だが二度目となるとそう簡単に怒りを治めることは難しい。

「もう・・・貴族ってどうしてあんなに無神経なのかしらっ!!」

ティアは貴族と言うものが基本的に好きではない。彼女の所属するダアトは、このオールドランド唯一の宗教であるローレライ教団の総本山だ。巡礼にはそれこそ身分の上下を問わず、様々な人間が訪れる。宗教の基本理念といえば、皆平等にというのが一般的だが、やはり金を持っていたり地位が高かったりする者が優遇されるのが世の常というもので、神託の盾の一員となった年月は決して長いとはいえないけれど、傲慢な態度を取る貴族の姿は嫌と言うほど見た経験はあると言えた。

自分の地位をひけらかしたり、金銭さえ出せば何をしても良いと考える者。ティアの中で貴族とは、王の忠実な騎士であり、その盾となる者だった。自らの主を支え、主の民を共に護る存在。それはティアの兄から教えられた事だった。彼もまた唯一と定めた主を持った存在だったから。
兄から主の話を聞かされる度に、幼い心をときめかせ 、何時かは自分もそんな主を持ちたいと憧れたこともあった。だが、現実はティアの理想とはかけ離れていた。ダアトを訪れる貴族達の姿は、とても王の騎士と呼べるものではなかったし 、その自己中心的な姿には怒りさえ感じさせられたものだった。

けれど、最初から余りにも高い理想を抱いてしまっていたからであろうか、彼女は自らの考えと立場の矛盾に気付いていなかった。確かにダアトには、他の二国の様に君主と呼ばれる存在は居ない。だが、呼び方が違うだけであって、結局は導師を中心とした上下社会だ。地位が高い者には服従する、それは当たり前の事であって、苛立ちを覚える事の方が間違っている。

ましてや軍隊という完全な縦社会に身をおく彼女が、例え他国のであっても、貴族に対しそんな態度や考えを見せる事がどれだけ不敬なことなのかを教育されないはずが無い。どれほど人間的に好意を持てない輩であっても、地位を持つ者に対しては敬意とそれなりの態度を取らなければならない事を彼女は、神託の盾に入団した際に教えられた。けれどティアにとって不幸だったのは、知識として教えられはしたが、それを実戦する場を与えられなかった事だった。

神託の盾という集団の中で彼女が過ごしていれば、嫌でも上司や部下に対してや貴族、一般人に対してといった態度の変化を身につけられただろう。けれど、ユリアの子孫という特殊な立場と兄が主席総長という立場に居た事で、彼女はそういった集団の場で生活する事が出来なかった。
いや、必要無かったと言った方が良いかもしれない。只でさえ、特別な血統の持ち主であるという特別扱いを彼女は幼い頃から受けており、そのことを彼女自身が意識していたかどうかは兎も角、幼い頃から彼女は他者に配慮をする必要がなかった。軍に入団した時も、集団という己の個を殺さなければならない場が多々有る中で過ごすという状況を免除され、教官を自宅へ招くなどという”特別扱い”を当然の事の様に受けていた。実際彼女にしてみれば、それは当然のことであり、周囲がそれを妬んだり羨ましがったりするのは間違っているとさえ思っていた。それがどれほど傲慢な考えなのか気付きもせずに。

「ティアっ!!」

一心に歩き続けていた為に、己の名を呼ぶ声が聞こえてくるまで彼が近くに来ていたことに気付かなかった。振り返れば朱色の髪を振り乱しながらこちらへ駆けてくるルークの姿が視界に入ってくる。だが彼女は不快そうにそれに眉根をぴくりと動かしただけだった。そうして彼が己の直ぐ傍まで近づくまで彼女はずっとその表情のままでいた。

「・・・・あの、ティア」

ここまで走ってきたために呼吸がどうしても荒くなる。それでもルークは彼女に早く謝罪をしなければ、と未だ乱れたままの息のまま口を開いた。対してティアの空色の瞳は冷たい色を浮かべたまま彼に向けられるだけだった。

「ごめん・・・俺また無神経な事言ったみたいで・・・・ティアの気分を悪くさせたな」

素直な謝罪の言葉 、何気ない一言が彼女の気分を害してしまった事を彼は心からわびていた。だが、それはティアの心には何の感情もわきあがらせない。彼は失礼な事を自分に言ったのだから、謝罪するのは当然であるとそう彼女は考えている。

「・・・・・・ 本当ね、無神経にもほどがあるわ。貴方、人に言ってはいけない事と良いことの区別もつかないの?」
「・・・・・・・・ゴメン」

けれど彼の立場を考えれば、それは当然の事だ。ルークが言葉遣いや態度に配慮しなければならないのは、公爵邸の中で、いやキムラスカやマルクトであっても数える程度の人数しかいないだろう。それこそ国王やそれに次ぐ地位を持つ人間で無い限り。間違っても、”只の一般兵”であるティアに配慮しなければならないという事はない。だがティアも、そしてルークもそれに気づかないまま、「仕方ない」と言ったような彼女のため息で会話は打ち切られた。

「・・・・・もう良いわ、何時までもこんな所で貴方と言い合っても仕方ないし。さぁそろそろ宿へ行きましょう。これからどうするかを決めなくちゃ」

それは許した、というよりは彼に何を言っても無駄だろうと判断したような口ぶりだった。実際ティアはこの時ルークを「我がままな貴族の子息」としての認識を自分の中に完全にインプットしてしまったのだから。そしてルークの返事を待つまでも無く、再び村の中央へとさっさと歩き出してしまう。ルークも慌ててその後を追いかける。それがどれほど異常な光景なのかに気付かないまま。


***
 

結局、2人が宿屋へ辿り着いた時は昼を過ぎてしまっていた。その理由としては、まずティアが向かった方向が宿屋とは反対方向であったことと、エンゲーブののどかな風景を2人がすっかり気に入ってしまい、あちらこちらと見て回っている内に時間が過ぎるのを忘れてしまっていたからである。

エンゲーブ自体はそれほど大きな村ではなが、世界の食糧庫と呼ばれるほど穀物の生産量が多く、其処に住む者は大半が農業か畜産を営んでいる。村の中は家や建物よりも、畑や大きな実をつけた木々の姿の方が多く 、村人達は畑で農作物の収穫に世話しなく働く者もいれば、用水路で釣りを行うなどののんびりした者もいた。ルークにとって初めてとなる屋敷の外の世界は見るもの全てが真新しく珍しく思え 、何を見ても驚きの声が上がってしまう。

それは新しいおもちゃを貰った子供が、嬉しくて仕方ない、といったようにはしゃぐ様に良く似ていた。だが外見年齢17歳のルークがそれをする様は、微笑ましさよりも奇異さの方が強く出ていただろう。何を当たり前の事をと普通なら馬鹿にされるところだが、諌め役のはずのティアもまた豊かに実る農作物に感嘆の眼差しを向け、ブウサギに歓喜の表情を浮かべるなど自らの思いに手一杯でルークを諌めている余裕など無かった。

村人達は最初の内こそそんな2人に奇異の目を向けていたけれど、もともと大らかで世話好きな気質であったことと、ルークが纏っている服が一目で上質 だと解るものであった為、何処かの貴族の子息がお忍びで来ているのだろうと(あながち間違いではないが)勘違いし、それならばせいぜい歓迎してやろうという使命感に目覚めた彼らは2人に深い歓待を与え続けた。漸くその事に気付いたのは、お昼を一緒にと、ある民家の主婦から誘われ、エンゲーブ名産の味噌を使ったパスタ料理を美味しく頂いた後だった。これはいけない、とまだ名残惜しそうなルークを連れて宿屋へ向かったティアは其処に大きく出来た人だかりに目を丸くする。

「・・・・・何か有ったのかしら?」

宿屋の前に陣取る人々の群れは、どう見ても穏やかとは言いがたい雰囲気を纏わせていた。先ほどまでののどかさが嘘のように思え、2人は不安げな表情を浮かべる。

『・・・・・もうこれで3度目だ。食糧庫に入ってた分は、根こそぎ持って行かれてる』
『来るスタンスが短くなってるな・・・・。けどこっちも警戒してたってのに、どうやって入ったんだろう』
『そんなことどうでも良いだろう。それよりこのままずっと、こんな事が続いたら俺達は・・・・』

「・・・・話の内容からすると、泥棒でも入ったのか?」
「ええ。それも初めてでは無いみたいね。でも困ったわ、これじゃあ宿に入れないわ」

声をかけようにも、皆酷く興奮していてとてもこちらの話を聞いてくれそうにはない。

「・・・仕方ないわ、また暫く向うで時間をつぶしましょう。彼らも何時までも居るって事はないでしょうし」

その言葉にルークの表情がぱあっ、と明るくなった。あまりの解りやすさにティアは苦い表情を浮かべるが、彼女も本心はもう少しこの村を見て回りたかったのだ。自分が育った場所はこことは正反対の草さえも生えない不毛の土地だった。其処を離れ、ダアトへと入信し二年が経つが、その間もこんなに沢山の畑や豊かな作物を見た事は無かった。この先何時来れるかは解らないのだから、今この時にじっくりと豊かな大地の実りを見ておきたかった。

「じゃあさ、今度はブウサギの居る方へ行ってみないか? あっちに子供をつれた奴がいたんだ」

(本人は隠しているつもりらしいが)可愛いものに目が無いティアは、一も二も無くこの申し出に勿論飛びついた。 愛らしいブウサギが戯れる様を想像したのだろうティアの雰囲気ががらりと柔らかいものに変わる。その変化にルークは苦笑を漏らしながら足を踏み出そうとした。だがルークが振り向いた瞬間、逆方向から歩いてきた男と勢い良く肩がぶつかってしまう。彼もまた泥棒の被害者らしく興奮しすぎてどうやら周囲をよく見ていなかったようだ。だがそれだけであれば、双方とも謝って済んだだろう。ルークにとって災難だったのは、先ほど屋台売りの男性から貰ったりんごがぶつかった拍子に道具袋から出てしまった事と 、エンゲーブに出没しているという泥棒が食糧専門であったと言う事か。慌ててりんごを拾うとしたルークの手を男が突然掴みあげる。驚いたルークが顔を上げると、興奮しきった表情の男がルークを睨み付けている。

「な、何だよあんた? いきなり人の腕を掴んで・・・」
「お前・・・このりんごを何処で手に入れた」
「はぁ? 何なんだよあんた、いきなり何言ってんだ?」
「いいから答えろっ!!」
「ちょっと貴方、一体何なの?」

さすがに尋常ではない男の様子にティアも諌めにかかるが、男は一向に静まる気配がなかった。そうこうしている内に騒ぎを聞きつけて、宿屋の周辺にいた者達もルーク達の方へ集まってくる。

「おい、お前どうしたんだよ?」

その内の1人がルークの腕を掴む男へと声をかけた。

「こいつがエンゲーブの焼印がついてないりんごを持ってたんだ・・・」
「はぁ? それがどうしたって言うんだよ」

エンゲーブ産の農作物は質が良く、それゆえ世界中へと出荷されている。その為他の野菜と区別が直ぐつくように必ず出荷前に焼印が押されることになっていた。それが有るのと無いのでは値段もかなり違い、ある意味ブランドの印 にもなっている。だが勿論エンゲーブで採れたものが全て外へ流通するわけでもなく、エンゲーブ内で売り買いされる商品については焼印が省略される事も多くあった。だからルークのりんごに焼印が押されていなくとも、別段不思議な事でも何でもないはずなのだ。だが男がそういった瞬間周囲がざわりとざわめいた。

「・・・・・・おい、たしか食糧庫のりんごには・・・・」
「ああ、まだ焼印を押してないのが幾つか有ったはずだ」
「そういえばこいつらよそ者だよな・・・・何時からここに居たんだ?」
「俺、こいつらが村の中をうろうろしていたのを見たぞ。もしかしたら・・・・」

自分達の周囲の温度がどんどん下がっていく。はっきりと口に出されたわけではないが、自分達が置かれている状況が理解できないほど2人も馬鹿ではなかった。

「ちょっ、ちょっと待ってください!! 私達は確かにこの村に来たばかりですけれど、泥棒なんてしていません!!」
「じゃあ何でりんごを持ってたんだ!」
「それは・・・・」

確かにティアはルークがりんごを貰った事は見ていたが、それは既にルークが食べてしまっていたはずだった。だから今ルークが持っているのは、彼女が屋台を離れた後で購入したものなのだろう。だが買ったところを見ていたわけではなかった為、一瞬言葉を口ごもってしまう。そうして口ごもったところへ男達は容赦なく言葉を畳み掛ける。ルークも必死で反論しようとするが、興奮し頭に血が上った状態の男達が正確な判断など下せるはずもなかった。

「おい、役人を呼んで来い!!」
「盗人め、散々俺らの作った物を盗みやがって!! 役人に突き出してやるから覚悟しろよ!!」
「ちょっ、ちょっと待てよ! 俺らは泥棒じゃねえ!!」
「話を聞いてくださいっ!!」

腰の木刀を奪われ、腕や髪を捕まれたルークはされるがままになる事しか出来なかった。
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