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1-4

「ふむ・・・少しヒムカミがむずかっておるようじゃが、まぁ問題ないじゃろう」
「本当ですか?」
「うむ、この分なら起き上がれるようになる日も近いかもしれん」

何度かユズハの身体を触診した後にトゥスクルが続けた言葉にオボロは喜色の色を浮かべる。

「良かったなぁ、ユズハ!」
「はい」

まるで自分の事の様に喜ぶオボロにユズハも柔らかい笑みを浮かべる。

「さて、わしらは少し話が有るでの。お主らは、そうじゃなわしらが戻るまでユズハの話し相手をしてやっていておくれ」

そう言うと、早々に椅子を立ったトゥスクルに案の定オボロが「トゥスクル様!」と咎める声をあげた。
だがトゥスクルは「さっさとこぬか!」、とオボロの長い耳を掴むと有無を言わせず、そのまま部屋の外へ引っ張っていく。

「ト、トゥスクル様っ!」

最後の抵抗の様にオボロの声が聞こえてきたけれど、すでに部屋から引きずりだされてしまっている彼に何が出来る訳もなく、やがて静寂の戻った部屋の中、取り残されたハクオロとアマネはどうしたものか、と顔を見合わせながら内心途方にくれていた。
どちらかと言うと、アマネはそんなに口が回る方ではない。それに長くは生きているものの、同性の知り合いと言えば、思い浮かぶのは遥か昔に別れた姉くらいのもので、ユズハの様な少女と何を話せば良いのか検討もつかない。そしてそれは父も同じであった様で、どちらも何を話せば良いのか、また互いが先に何かを話し始めて貰いたいと思っているのがありありと感じられ、また更に途方にくれていた。

「あの、ハクオロ様、アマネ様?」

だが何時の間にか寝床から半身を起こしたユズハが二人に閉じた瞳を向けていた。

「あ、あぁ・・・様なんて付けるから、誰の事かと思ったよ」
「・・・私もです。様付けで呼ばれるような身分ではありませんので」

「そうなのですか?」、と不思議そうに問い返すユズハに、彼女にはこれが当たり前なのだと二人は気付く。

「ユズハ・・・さんは」
「どうかユズハとお呼び下さい、ハクオロ様」
「ユズハ・・・は何処か具合が悪いのかい?」

自分だけ呼び捨てるのはどうなのか、と感じるけれど、彼女がそれを望むのであればそれも良いだろう。当のユズハがハクオロが彼女を呼び捨てた事に嬉しそうに表情を和らげているのだから。

「・・・よく解りません。ずっとこうだったから」
「っ、すまない!」

彼女の柔らかい雰囲気にほだされ、何気なく聞いた一言だったが、思慮が足りなかった。慌てて謝罪するハクオロにユズハはやはり柔らかい笑みを浮かべながら「どうして謝るのですか、ハクオロ様のせいではありませんのに」と笑って返す。

「あ、あぁ。そうだな、すまない」
「ふふ、あのハクオロ様の事をお聞きしてもよろしいですか?」
「自分の?」
「はい、ご迷惑でなければ」
「いや、迷惑なわけは無いが・・・自分は」
「?」

歯切れの悪い返答にユズハは自分が悪いことを聞いてしまったのか、と表情を曇らせる。

「自分は・・・どこかで怪我をしていたらしくてね、トゥスクルさんに助けられた。だが、目覚めてみたら過去の事を忘れていた」
「!」
「だから、話せるような事は特には無いんだ。すまない・・・」
「いえ・・・私こそすみません。ふふ・・・・」
「ん、どうかしたのか?」

突然可笑しげに笑い出した少女にハクオロが不思議そうに問いかけた。

「すみません。あ、また・・・・。私達謝ってばかりでしたから、ついおかしくて」
「・・・そうだな」

互いに謝りあってはいたけれど、二人の間にさっきまでの気まずい雰囲気は無く、むしろ和らいだものに変わっていた。
ハクオロの身体からも先ほどまで感じられていた戸惑いが薄れ、穏やかなものへと変わっている。二人が穏やかに話し始める中、只一人アマネだけがぽつん、と一人だけ其の中に入ることが出来ず、ただ二人のそんな穏やかな様子を見つめていた。

どうやってその穏やかな雰囲気の中に入っていけば良いかも解らなかったけれど、それよりも父の口から出た言葉に言葉を失ってしまったという方が正しいだろう。

『・・・・記憶喪失?』

ありえない事では無い。いくら力があると言っても、ハクオロの身体はヒトと同じものだ。怪我もすれば、記憶を失うこともあるだろう。
と、納得してもそれを簡単に受け入れる事はできなかったけれど。

「あの、アマネ様は・・」
「え・・・?」

だからユズハがアマネに声をかけて来た時は本当に驚いた。自分の考えにこもってしまい、二人が話している声等全く耳に入っていなかったのだから。

「あ・・・、すみません突然話しかけたりしてしまって。驚かせてしまいましたか?」
「え、いいえ。そんな事は・・・・。何でしょうか?」

自分は余り他の人と話すことが無いから、もしかしたら不愉快な想いをさせているかもしれないと心底申し訳なさそうに謝ってくるユズハに慌てて「違うのだ」と否定の言葉を何度も口に出し、漸く納得してもらう。

「アマネ様は薬師なのですか?」
「え、ええ、そうですが。でもどうして?」

ハクオロが彼女に話したのだろうか? けれど先ほどの二人の会話にそんなものは無かった筈だが、とアマネは記憶をたどってみるがやはりその様な会話は無かったと再確認しただけに終わる。それにハクオロが-たとえ記憶を失っていたとしても-アマネの事を好んで口に出すとは思えない。

「アマネ様からトゥスクル様と同じ薬草の香りがしましたから。暖かい、優しい香り。それに・・・・」
「?」
「あの、違っていたらご免なさい。アマネ様とハクオロ様はご家族なのですか?」
「え?」

どくん、と心臓が大きく跳ね上がる。傍らではハクオロも同じように驚いた表情を浮かべていた。

「い、いいえ・・・・。違います、どうして・・・・・」
「あ、ご免なさい。お二人から同じ香りがしたもので。ですからてっきりご家族なのかと・・・」
「同じ、香り・・・?」
「はい、大きな土の香りが」

お二人の身体から香ってきます――、と無邪気な様子でユズハは応えた。

「・・・・・・・・・・」

彼女にとってみれば、それはただ感じた事を口に出しただけにすぎなかったけれど。
アマネにとって、それは---。

「・・・・アマネ様?」

目は見えなくとも―だからこそ他者の感情の起伏には敏感になるのかもしれないが―、アマネの纏う雰囲気が変化したのを敏感に察知したユズハは、それが自分の発した言葉によっての事だという事も気づいていた。

「あの・・・・、私何かいけない事を言ったでしょうか・・・・?」

恐る恐る、と言うより酷く傷ついたような声で問いかけてくる少女にアマネが何を言い返せただろう。

「いいえ・・・、何でもありません」、とただ其れだけを言う事しか。彼女は悪くない、何も知らないのだから。思ったことをただ口に出しただけ、それは罪と呼べるものですらない。たとえ其れがアマネを知らないうちに深く傷つけたとしても。

「・・・・・すみません、そうですねハクオロ様のようなお身内が居ればよかったのですけれど。生憎と、何の関係も無いんですよ」
「そうなのですか・・・?」
「ええ・・・・。先ほどまで一緒にいましたから、ひょっとしたら香りが移ってしまったのかもしれませんね」

本当はそうでない事は解っているけれど、それを知るのは自分だけで良いことだから。
自分の中に彼の血が流れている事を知るのは自分だけで良い。父でさえ、今はその事実を忘れているのだから。

「それより、ユズハさん、私も貴女を診察させてもらっても良いですか?」
「え?」
「トゥスクル様ほどではありませんが、私も色々国を回って薬学を学んできました。もしかしたら少しはお役に立てるかもしれません」
「え・・・・、あ、はい。でも、良いのですか? ご迷惑では?」
「いいえ。では、良いのですね」
「はい・・・・、お願いします」

ぶしつけな事は充分承知していたけれど、これ以上ユズハに自分の気持ちを悟られるわけには行かなかった。と言って、上手く話しを切り替えるなどという高等技術がアマネに出来るはずも無く。結局、無理やりユズハを診察する、という申し出を出すしか出来なかった。
けれどアマネとて何も考えずにこんな事を申し出たわけではない。薬学の知識が有るのは本当だし、治す手伝いが出来るのであれば、と思ったことも本当だった。
ユズハの手を取ると、まずは脈を取り、次に彼女の身体へ手を伸ばしていく。
小さな鼓動の音が手を通り、アマネの中へと流れてくる。聴診器などの道具は無いから、自分の手だけで彼女の中を"診なければ"ならない。
だからこの時だけは、アマネは全ての意識をユズハへと向ける。父の事も、自分の事も忘れて、ただユズハだけの事を考えた。


どれくらいそうしていただろうか。
決して短い時間ではなかったけれど、長い時間でもなかったような気がする。
ハクオロに医学の知識は無いが、それでもアマネがただユズハに触れているだけでない事は理解できた。けれどそれは彼が、豊富な知識を持っているからであって、他人にはただ触れているだけにしか見えないくらいなんでもない動きであった。
それでもアマネの手と指は確実にユズハの中の病巣を一つ、また一つと見つけていく。

「お前っ、何をしているっ!!」

だが妹の事となると見境を無くす兄にとって、それを診療の為の行為と認識する事は容易いことではなかった。
只でさえ、見知らぬ者達と供に居る妹の事が気になって仕方なかったのに、漸く部屋へ駆けつけてみればトゥスクルの身内とはいえよく知りもしない女が妹の身体に触れている。咄嗟に大きな声を上げてしまってもそれは仕方が無かっただろう。
集中を乱されたアマネの手がピクリ、とユズハの身体から離れた。そしてそのまま、駆け寄ってきたオボロに其の手を掴まれる。
ハクオロが止める間も無く、ギリギリと容赦など一切感じさせない力で、オボロはアマネの手を締め上げる。

「貴様、よくも妹にっ!!」

法術が使えても、身体は生身のヒトとそう変わらない。腕を捻り上げられれば痛みも感じるし、もっと力が加えられれば最悪骨が折れるかもしれない。

「っ!!」

自然と口から漏れ出た悲鳴が、余りのオボロの反応の速さに呆然としていたハクオロとトゥスクルの意識を漸く呼び戻した。

「オボロ止めろっ!!」
「止めんかっ、馬鹿な事をするでないっ!!」

慌ててハクオロがオボロを止めに入るが、それよりも早くオボロを止めた声があった。

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