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天上の愛地上の恋 感想

【作品概要・感想】

流行病で両親を亡くしたアルフレートは、教会の世話になりながら暮らしていた。貧しい村での庇護を受けながらの暮らしは彼の中に、自分が必要のない人間なのではないか、という意識を抱かせる。そんなある日、シュタインベルク湖を訪れた彼の耳に一発の銃声が聞こえてきた。
驚いたアルフレートが見たものは、拳銃で頭を撃ち抜かれて死んだ男の死体と、その彼の傍らに跪く少年の姿だった・・・・。


歴史的背景がしっかりと描かれており、何よりも登場人物が一人一人非常に個性的です。
オーストリア皇太子ルドルフと孤児のアルフレートの運命的な出会いと、2人が共になくてはならない関係になっていく段階が特に好きです。

紆余曲折なんて言葉では表せないほどの、道のりを経て2人が行き着く先を本当に胃が痛くなる思いで読んでいきました。幸せの形はそれぞれで、納得いかないところもあったけれど、良かったんじゃないかなぁって思っています。
主従関係の話でもあるので、多少JUNE系の表現を含みますがそれほど表現は多くありません。むしろもっと・・・・、と思わせるほど控えめです。
話はとても面白いし絵もきれいなのでぜひ読んでもらいたい作品ですね。
最終巻が出たのが、2002か3年なので、随分と古い話になってしまいました。筆者の加藤知子先生はこれ以降コミックスは発表していないので、文庫化も難しいかなぁ・・・と。埋もれさせてしまうのは非常に惜しい作品なんですけれど…。

【登場人物】
・アルフレート・フェリックス
一部:マイヤー司祭のお手伝い、修錬士 二部:オーストリア宮廷司祭 三部:善意の世直し人
とまぁ、色々やってますが管理人の最愛の人物であったりします。
座右の銘は「暖簾に腕押し」とか「糠に釘」とかじゃないかな。三部になるまで、結構人の意見に流されっぱなしな部分が目立つので。
誰かの役に立ちたい、誰かの為に何かしたい、という意識がとても強い人だと思います。その筆頭はもちろんルドルフなのだろうけれど、過去の事件が追い目になって完全に自分を彼に差し出す事が出来なかったのでは…。実際メルクの事件が無ければ、迷いながらも彼は司祭とは別の道を進んでいたのではないでしょうか…。
ルドルフとマイヤー司祭によって全部流されているようなアルフレートの人生って…。

・ルドルフ・カール・フランツ・フォン・オーストリア
オーストリア皇太子
悲劇の人。余りにも優秀だったため、周囲を理解できず、理解しても貰えなかった人。
国を見捨てることも、国民を捨てる事も出来ずに孤軍奮闘していたところへアルフレートと出会ったのでは…。ルドルフがアルフレートに惹かれた理由って、自分に何も求めなかったからじゃないのかなって思います。けれど彼はルドルフに求めなかったと同時に彼をも求めなかった。アルフレートに求めて貰いたいって気持ちと、彼を欲しいって気持ち。けれど国を思う気持ちもそれを同じぐらいに大きくて話がこんがらがったのではないかと…。
何にせよ、ルドルフはアルフレートが大好きって事で落ち着きましょう。無理やりですが。

その他の方々はまた
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4-3

「ん~~、おねーちゃんくるしい・・・」

その時アルルゥがアマネの腕の中でもぞもぞと動いた。両者の間に漂っていた緊迫した雰囲気は、アルルゥには伝わらなかったらしく間の抜けた声が周囲に響く。

「ア、アルルゥじっとしてて・・・」

「危ないから」、と続けようとした言葉はアルルゥの「や~」という言葉に遮られた。そのままもぞもぞと動き続けた少女は、アマネの腕が緩んだ一瞬の隙を逃さず、そこからぴょんと小さな身体を飛び出させる。

「アルルゥ!」

止める間も無く、アマネから離れたアルルゥはトテトテと軽い足音を立てながら再びシシェの元へと近づいていった。
「危ないっ!」と後ろでアマネが叫ぶが本人は気にした様子も無く、「ん~~なでなで」と呑気な声を出しながら再びシシェへと手を伸ばし、そしてやはり再びベナウィに其の腕を捕まれた。

「無闇に馬に手を出してはいけないと言ったでしょう」
「ん~~~」

小さな頬をぷっくりと膨らませて、不満を訴えるもののベナウィの手は一向に緩まない。

「やぁっ!」
「嫌では有りませんよ。怪我をしてからでは遅いのですから、大人しくしてください」
「ん~~~!!」

ぷくう~、と益々紅く膨らませた頬を広げながら、じたばたと腕を動かしてはみるものの、やっぱり腕は自由にならない。少女と青年のおかしな攻防。呆気に取られた表情でそれを見つめるアマネに、クロウがポリポリと頭を掻きながら「まぁ、そういう訳なんでして・・・」と困ったように呟く声が聞こえてきた。そして漸くアマネも自分がとんでもない勘違いをしていたのだと気付き、アルルゥとは違った意味で顔を紅く染めた。

「す、すみませんっ!!」

焦っていたとはいえ、自分は恩人にとんでもなく失礼な事をしてしまった。
慌てて頭を下げるアマネにクロウは「いやいや、そんなに気にする事でもないんですけどね」とやっぱり困ったような口調で答える。其の間もアルルゥとベナウィのおかしな攻防は続いていた。

「や~~!!」
「ですから、無闇に手を出さないと約束してくれるのであれば、手を離して上げますと言っているでしょう」
「や~~~な~~の~~!!」

アルルゥは決して頭は悪くないが、頑固な所があり何より理屈で考えるより感情が先に立つほうが多い。ベナウィも小さな子供には理屈を説くだけでなく、少しは引いてやる事も必要だと解るほど子供に対する経験値を持ち合わせていなかった。結果、「嫌なの」「嫌じゃない」という不毛な言い合いが何時までも続く結果になっているわけなのだが。

「アルルゥ、いい加減にしなさい」

流石に見かねてアマネが止めに入るが、やはりアルルゥの口から出るのは「や~」、という拒絶の言葉ばかりで流石にこれにはアマネも困った表情を浮かべる。だが確かにアルルゥは頑固ではあるが、こちらの言葉を聞かないわけではない。聞かないなりに、何か理由があるはずだと漸く冷静になり始めた頭が働き始めた。

「アルルゥ、何が嫌なの?」

腕を捕まれているのが嫌なのではない、そう判断したアマネが問いかけると案の定アルルゥは「痛いのや」、と些か潤み始めた瞳をこちらに向けながら言い返してきた。

「痛い?」
「痛いって言ってる、痛くて歩けないって」

「誰が?」と問い直す前に、アルルゥが「ん!」、と後ろに横たわる白い馬を指差した。
見れば確かに珍しい白い毛並みは、生々しい赤い色に大きく染められており、尚も其の色は広がり続けていた。そうして漸く其処でアマネにもアルルゥが何故突然走り出したのか、何故我を張り続けたのか、その理由が理解できた。

恐らく彼女の獣と心を繋げる力が、この白い馬の声を聞いたのだろう。
そしてこの少女がそれを放っておくはずが無い事もアマネには解っていた。

「アルルゥ、兎に角落ち着きなさい。その子は私が診ますから」

アマネがそう言うと、アルルゥは「ん!」と頷いて漸く暴れる事を止めた。

 
突然呆気なく抜けた力に、自然と少女を掴む腕も緩む。
けれど遮る手が離れても、少女はもう暴れようとも無闇に手を伸ばそうともしなかった。それどころか期待に心を震わせるように、大きな目をキラキラと輝かせ、あれほど固執していたシシェとは逆の方向を見てさえいる。
彼女の視線の先にいるのは、白い女。自らの愛馬の毛並みの色よりも、更に白く長い髪を持った。

彼女の何が少女をそんなに期待させるのか。
見ればパタパタと尻尾さえ降り、「早く早く」と瞳は訴えているかのようだ。

「おね~ちゃん、早く」
「待って、まずはちゃんと診て見ないと」

そういって彼らの近くまで来た女は、其処で始めてベナウィに怒りの色の交えない瞳を向けた。

「触れても良いですか?」
「え?」

女の口から突然出た言葉に一瞬面食らう。
普段から滅多な事では感情を動かさないベナウィの顔に、僅かだが朱の色が走った。

「私、薬師なんです。少しはお役に立てるかもしれません」

けれどたった一言で彼の感情を動かした女は、そんな彼の変化にも気付かないままさっさと視線を彼から外してしまう。
其の目は既に目の前の馬-シシェ-へ向けられていた。

「あ、ええ・・・。お願いします」

その時漸く、彼女の言わんとする事の意味を悟ったベナウィは曖昧な言葉でそれを肯定した。同時に、自分の中に一瞬湧き上がった考えに愕然とする。
アルルゥとのやり取りで些か冷静さを失っていた事は事実だが、それにしても普段の彼なら少し考えれば直ぐに、彼女が何を言おうとしているのか理解できただろうに。先ほどとは別の意味で、頬を朱に染める彼であったが、其の原因となった彼女は既に彼の事など見ておらず。既にシシェの手当てを始めていた。

尤も、普段からあまり感情を出さない為、其の変化は僅かなものでしかなく例えアマネがベナウィの方を向いていたとしても気付かなかっただろうけれど。付き合いの長いクロウが、自分の主の僅かな変化を見逃すはずもなく。

2人(3人)から少し離れた場所で其の様子を見ていた彼の表情には色々な意味の感情が浮かんでおり。そしてそれもやはり、お互いがお互いの感情で忙しい時であった為、誰にも気付かれない内に消えていった。


あとがき
アルルゥの口調が不明瞭。
きちんと話せるのに、話してないみたいに見えてしまう・・・・。
そしてベナウィさん。何を考えたのかな~♪ やはり奴も男、って所を書きたいんですが力量不足ですな。もっと悶々とする彼を書きたい!!

天上の愛地上の恋

・天上の愛地上の恋部屋
 出版社、作者の方とは何の関係もございません。

--------------------------------------------------------------------------------
 
天上の愛地上の恋  ルドアルが好き
【作品概要】
著者:加藤知子 出版社:白泉社(花とゆめコミックス)
全11巻+特別編1巻

・君に送る7つの選択

お題提供:TV様

4-2

走った、名前を何度も呼びながら。
なのに捜し求める少女の姿は何処にも見当たらない。
確かにこっちに来たはずなのに、と首を何度も左右に振って確かめるが道らしい道は今自分が立っている場所のみで、あとは鬱蒼とした木々が立ち並んでいるだけだった。

「アルルゥっ!!」

もう一度名を呼ぶ。けれど応える声は無い。
もしかしたら森の中に入ってしまったのだろうか。普段から姉のエルルゥと供に薬草取り等に出かけているから、森の中にも慣れてはいるだろうけれど、それはあくまで村周辺の森でなら、という意味だ。ましてやこの辺りは軍の演習地として使われており、決して安全とは言えない場所である。

「アルルゥっ!!」

既に悲鳴に近い声しか出ない、大切な、大切な子なのに。
大切な、父親の大切な"娘"なのに。

その時、前方から「くるる」、と小さなウォプタル(馬) の声が聞こえた気がした。
か細い声はもしかしたら気のせいかもしれないけれど藁にもすがる思いでアマネはそちらへ向かって駆け出した。
ウォプタルがいるのなら、人もいるはずだ。 もしかしたら一緒にいるかもしれない、姿を見ているかもしれない、そんな風に願いながら足を進めた。

そして其の願いは、数歩進んだ先で叶えられる事となった。
探し求める少女の姿を其の先に見つけたとき、浮かんだのは安堵と喜びの感情。

「アルルゥ!」

其の少女の名前を呼ぶとき、それが義務感や責任感から来るだけでない確かな感情が宿っている事に彼女は気付けない。
ただ少女の傍に行かなければならない、とただそれだけを思っていた。

 
***

 
ぴょこり、と少女の垂れ下がっていた耳が上へと上がる。
聞こえてきた悲鳴にも近い声、けれど何処か安堵感を含ませたそれは恐らく少女の肉親の者が発したものなのだろう。
見れば、少女も喜んでいるようで表情こそ変えていなかったけれど、耳や尻尾が上へ下へと世話しなく動いている。
兎に角これで不毛な状況から、少しは抜け出せるだろうと声のした方へ視線をやった。
次の瞬間、彼の耳に飛び込んできたのは安堵とけれど何処か怒りを宿したような女の声だった。

 

「其の手を離してっ!」

 

求めていた少女の姿を見つけた安堵感は直ぐにその腕を取る男の存在に打ち消された。
甲冑を纏った姿はどう見ても農民とはかけ離れており、かと言ってこの国の一般兵がするような服装でもない。
明らかに高位の、それなりに地位を持った男、それがアルルゥの腕を掴んでいる。その瞬間頭の中に浮かんだのはこれでもか、と言うほど悪い考えばかりで。

ヤマユラで暮らし始めてからというもの、ヌワンギやササンテ等、ある意味最低な部類に入る"地位を持った人間"ばかり見ていたアマネにとって、その時浮かんだ考えが悪いものばかりであった、というのは有る意味当たり前の事だったかもしれない。
普段ならもっと冷静に物事を考えられるのだが、この時は不安と疲労、そしてただ目の前の少女を取り戻したいという感情だけが頭の中を支配していた。
そして其の感情のままに行動する事を止める者はこの場所には居ない。

「其の手を離してっ!」

其の言葉が口から出た次の瞬間、アマネはアルルゥとその彼女の腕を取る青年の間に割って入っていた。
小柄な少女の身体を抱きしめながら、唖然としている目の前の男を睨みつける。

 

 

それほど強く掴んでいたわけではないが、少女の腕があっさりと離れていったのには少し驚いた。
行き成り怒鳴られた事に、自分が思う以上に驚いてはいたのかもしれない。
自分と少女を分け隔てるように割り込んできた白い身体。怒りを露にした青い瞳が自分を睨みつけている。
けれど其の腕に抱かれた少女はやっぱり表情を変えず、「ん~」と解らない言葉を口にしているだけだった。

「この子が何か失礼な事をしたのであれば、私が謝ります。だからこの子には何もしないで!」

怒りに満ちた声がベナウィに向けられる。
口調だけを見れば謝罪の形をとっているものの、彼女が自分達に悪意の感情を持っていることはその雰囲気から明らかだった。
まるで自分達が少女を害そうとしたかのように。
こちらとしては突然現れた見知らぬ少女に対し、怪我をしないように気を使ってさえやったというのに、何故その様に思われなくてはならないのだろうか。

「あ~、まぁ、何だ」

後ろでクロウが困った様に呟く声が聞こえてくる。
彼も目の前の女が自分達をどう見ているのか気付き、どう対処すべきか考えあぐねているのだろう。

「そう見えちまうのはまぁ、仕方ねぇって言うか・・・。いやいや、仕方なくは無いんだが・・・・・」

言葉を考えながら紡ぎはするものの、見た目通り武人体質のクロウは言葉でもって相手を納得させるより身体で納得させる方を得意としていた。
当然、女子供の扱いなど慣れているはずも無く、出てくる言葉はしどろもどろで、上手い言い方とはお世辞にも言えない。
案の定、何を言っているんだ、と女の目は益々刺々しいものに変わってしまっている。かと言って、どうすれば良いのかと考えも浮かんでこなかった。

4-1 神様との恋

「ん・・・・?」

ヤマウラの里にハクオロと供に滞在してから、もう直ぐ年が変わろうとしていた。
藩主の無理な税の搾取、ユズハの病と何度か事件は有ったものの、一番の問題であった食糧の供給はハクオロの気転で上手く運び、それ以降は特に大きな問題も無く穏やかな日が流れていた。少なくとも、ヤマウラの里の中では。

「どうかしたの、アルルゥ?」

ウォプタル(馬) の背に供に跨りながら、きょろきょろと突然辺りを見回し始めた少女にアマネは訝しげな表情を浮かべながら問いかけた。
アマネの腕の中にすっぽりと納まってはいるものの、元々バランスの悪い場所に供に座っているのだ。少し大きく身体を動かせば、地面に落ちてしまうだろう。だがアルルゥはアマネの諌めにもきょろきょろと、身体を動かす事をやめなかった。

「・・・・・聞こえる」
「え?」

「何が?」、と聞き返す間もなくアルルゥはぴょんっ、とウォプタル(馬) の背中から飛び立ってしまう。「待ちなさい!」と言ったもののアルルゥが飛び降りたショックでウォプタル(馬) が暴れてしまい、それを静めるのに気を取られ彼女が森の中へ書け去って行くのをただ見つめる事しか出来なかった。

「ああ、もうっ!!」

一体何が聞こえたというのだ、と毒づきながら何とかウォプタル(馬) を静めたアマネは、傍の木に彼を繋ぎ自分も森の中へと入っていった。

 
 
*** 

 

「ったく、付いてませんでしたね、大将」

ボリボリと頭を掻きながら、大柄の男が不満げに呟いた。
彼の前に居るのは珍しい白い毛並みのウォプタル(馬) と、そのウォプタル(馬) の主であり自分の主でもある男。

「駄目ですね。やはり騎乗は難しいでしょう」

屈みこんでいた場所から立ち上がると、青年は静かに言った。
其の言葉に男-クロウ-が今まで青年が屈みこんでいた場所に目をやると、白いウォプタル(馬) の足は痛々しいほど鮮やかな赤い鮮血に染まっており、血止めに当てた布の上にもそれは更に広がっていた。

「ちっ、全く誰がこんな場所に罠なんて仕掛けたんだか」

普段、軍の演習地として使用されている森は、街からも遠く離れており人は滅多に立ち入らない場所のはずだった。それに、そもそもこの場所での狩りは禁じられているはずである。忌々しげに穿き捨てるクロウとは対照的に、彼の主である男-ベナウィ-は「解りません」、と静かに言った。

「いずれにしろ、今はそれを問うている時ではないでしょう」
「まぁ、そうっすけどね・・・。ですがどうしやす、俺のウォプタル(馬) に乗って行きますかい?」

そう言ってクロウは自分のウォプタル(馬) を指差したが、ベナウィはゆっくりと首を横に降った。

「いえ、それは無理でしょうね」

ベナウィとて決して小柄とはいえない、寧ろ長身と言って良いくらいの体形をしているけれど、クロウはその彼よりも更に大きな身体の持ち主だ。当然彼が乗るウォプタル(馬) もそれに合わせたものとなる。乗れない事はないであろうが、酷く乗りにくいだろうし、何よりも彼がクロウのウォプタル(馬) に乗ってしまったら、今度はクロウが乗る物がなくなってしまう。
それに自分の愛馬-シシェ-をここに残していくのも忍びなかった。クロウもベナウィのそんな気持ちがわかるのだろう、「でしょうねぇ・・・・」と困ったように呟いた。

「ですが、こっからじゃ元の場所に戻るにしても遠いし今日中に皇都につけなくなっちまいますぜ」

かと言って、歩いていくにも距離が有りすぎる。丁度、最も都合の悪い場所で運悪く、罠にかかってしまったわけだ。
クロウの口振りに自然と苛立ちが混じり始める。ベナウィも表情には出さないが、内心はかなり焦っていた。
早目に出てきたため、まだ時間的な余裕はあるが、それも無限ではない。何よりも、これから会おうとしている相手は、大変気まぐれで自分の思いつきや気分次第でコロコロと予定を変える様な人物 だ。本の僅かでも遅れれば直ぐ様激昂し、こちらの言い分など一切聞いてはくれないだろう。
だからこそ、何が起こっても対処できるように早めに出てきたというのに、こんな所で足止めを喰らうとは――――――。

「ったく、せめて民家でもあれば、ウォプタル(馬) の一匹くらい借りれたってえのに・・・・・・」

人里離れているからこそ、演習地として選ばれたのに今はそれが酷く疎ましく感じられる。
唯一の希望は、誰かウォプタル(馬) を連れた者が通りかかってくれる事ぐらいだが、それも殆ど可能性が無いという事が解っていた。
街へと向かう街道はこの森を抜けた先にあるため、態々道を外れてこんな森の中へ来る者が居るはずもないのだから。

「ん~~~」

そう、いない筈だった。
普通なら。

「・・・・・・・・・・・・・大将、誰何すか、そのちっこい嬢ちゃんは?」
「さぁ?」

何時の間に傍に来ていたのだろう、ベナウィの傍らに10歳くらいの少女が座りこんでいた。ぴょこぴょこと黒い髪の間から薄茶色の耳が動いている。
どうやら"普通の"少女の様だが、それならば何故こんな小さな子がこんな場所に一人で居るのだろうか。そんな同じ疑問が二人の頭の中によぎるが、件の少女はどうやら彼らには全く意識を向けていないようで、大きな黒い瞳は真っ直ぐに目の前のウォプタル(馬) -シシェ-へ向けられていた。

「ん~~、痛い?」
見た限り、10か11歳くらいだろうか。年齢の割りには幼げな口調で少女はシシェに問いかける。
「クルル・・・」と、其の声に答えるようにシシェが小さく鳴いた。

「ん」

まるで会話をしている様に少女はごく自然な動作で其の声に頷く。同時にその白い肌に触れようと小さな手を伸ばした。だが流石にそれは危険だと判断したベナウィによって止められる。

「ん?」

腕を捕まれ、大きな赤茶色の瞳が「何?」とでも言うようにベナウィを真っ直ぐ見つめてきた。

「無闇にウォプタル(馬) に手を出してはいけませんよ」

怪我をしてからでは遅いのだ、と咎めるけれど少女は「ん~~」と通じているのかいないのか解らない言葉を出すだけだった。

「そうですぜ、譲ちゃん。ウォプタル(馬) には気の荒い奴も多いですからね、いきなり噛み付かれちまう事だって有るんすよ」

幾分かはベナウィよりも子供なれしているクロウが助け舟を出そうとするが、少女はやはり「ん~」と唸るばかりで一向に会話が進まない。
困ったようにクロウはボリボリと頭を掻き、どうするべきかと自分の上司へと視線を向けた。その時再びシシェが「クルル」と小さな声で鳴いた。

「大丈夫」

やっと少女が会話らしい言葉を口にする。けれどそれはベナウィやクロウにではなく、あくまでシシェに対して言った言葉だった。
言葉が通じないわけではないのに、会話が出来ない。更に厄介な展開になってきた事に、クロウもベナウィもさてどうしたものか、と顔を見合わせる。だがそこでもう一度、少女は彼らにもはっきりと解る言葉を口に出した。

「大丈夫、お姉ちゃん来る。だから、大丈夫」

そして其の声に被るように、「アルルゥ!」と甲高い声が道の先から聞こえてきたのだった。

 

あとがき
アルルゥがベナウィと普通に話しているのは、やはり「珍獣」ゆえでしょう。

3-4

「へぇ……どこら辺にいたんですか?」

エルルゥが少女らしい好奇心から問いかけてくる。だがアマネは笑ってその問いを受け流した。
語るには昔すぎるし、余り思い出したくもない記憶だったからだ。

だがテオロにとってはそれよりも、今まで自分達が使ってきた薬のもう一方の一面を知った事の方が気になったらしい。今はまだそんな兆候は無い畑を見まわしながら、ハクオロに問いかける。

「それにしてもアンチャン、この薬って虫がつきやすくなるのか?」
「ええ、でも気をつけていますから。今は大丈夫ですよ。ただ、その内虫を寄せ付けない薬もまいてやらないといけなくなるかもしれませんが」
「ふぅん・・・・。俺何かは難しい事は分んねえけどな、でも全く良いことばかりじゃねえんだな」

ハクオロの答えにテオロは考え深げに頷いた。他の者も同じようにうんうん、と首を縦に振っている。

「・・・・何でも過ぎすぎると、毒にしかななりませんからね。例え最初がどんなに良くても」

神妙な言葉に誰もが言葉を無くす。先ほどまであんなに明るかった雰囲気が一気に冷たいものに変化してしまっていた。

「あ、でもこれ自体が悪いというわけではないんですよ」

自分の放った言葉がその原因となっているため、アマネは慌ててそれを払拭しようと言葉を紡ぐ。

「使いすぎなければ、というだけであってこれはとても良い薬なんです。収穫を倍にしてくれますし、土地を豊かにしてくれる。モロロだって、他の作物だってもっと採れるようになりますし!」

現に今もそれほど虫が付いていないのは、ハクオロがきちんと対処しているからだろう、とアマネが言葉を紡げばテオロも「ああ、責めてるわけじゃないんだ」と元の穏やかな笑みを浮かべながら言葉を返してきた。
だが、その言葉にアマネが安堵の表情を浮かべる暇もなく、ソポクがテオロの耳を強く引っ張り上げた。

「ほら、あんたが似合わない真面目な物言いなんかするから、この子に要らない不安をもたせちまっただろ」
「か、母ちゃん、いたいっての!」

とがった耳を掴み上げられてテオロが悲鳴に近い声を上げる。だがソポクはそれに構わず、彼の耳を掴んだまま、アマネの方を向くと「すまないね家の宿六が紛らわしい事を言って」、と謝罪の言葉を口にした。

「その薬が悪いって言ってるんじゃないんだよ。あたしらだって、その薬がどんなに役に立つものなのかもう解ってる。もう使わない、何て事も言えない。ただね、ちゃんと知っておきたいんだ。良い面ばかりじゃなく、悪い面もね」

そう言ったソポクの言葉にテオロもうんうん、と勢いよく頷いた。

「そうだぜ、ずっと無理だと諦めていた畑が成功したのはアンチャンと、この薬のおかげだからな。けど、だからこそこのままそれを維持したい、って思ってる。お前らだってそうだろ?」

そう周囲の者に問いかければ、ウーもヤーもダーも皆一様に頷いた。

「だからよ、全部知っておきたいって思っただけだ。どうすれば良いのか、どうすればそれができるのかな」

今でこそこの畑のおかげで食糧の備蓄も可能になったが、それ以前は食べるのに精一杯でとてもそれどころではなかった。モロロの収穫量もまばらで、十分な食糧も手に入らない年が続き、なのに税収は年々重くなって村人たちの生活を圧迫する。

それでもトゥスクルの采配によって、これまでは何とかやってこれた。だが彼女ももう高齢、何時までも頼っている事など出来るはずもない。
口にこそ出さなかったが、皆抱いていた先の見えない不安。けれどハクオロと彼がもたらした知識によって、状況は一変した。
畑は収穫物で満ち、食糧庫には備蓄もできた。食糧をめぐって頭を悩ます事も無くなった。今更以前の状態に戻す事は出来ない。

けれど、ハクオロは村に受け入れられているとはいえ、やはり余所者なのだ。今は記憶を無くしてここに留まってくれてはいるが、何時記憶が戻り、この村を立ち去るかもしれないという思いもある。

ならきちんと知っておきたいと思う。
良い面も、悪い面もそれぞれを全て。

最悪、トゥスクルやハクオロがいなくなった後、自分達の力だけできちんとやっていけるように。
言葉にしなかったけれど、エルルゥはそんな村人達の隠された思いを感じ取ったのか、少し悲しげな表情を浮かべた。

「・・・・すみません、もっと早くに説明しておくべきでしたね」

悪い事を先に教えてしまうと、躊躇が生まれてしまうと考えてのことだった。ならそれが齎す結果を先に見せてからの方が良いと考えての事だったのだが、彼らの喜びに水を差したく無くて、つい言いそびれていた。

「な~に、良いって事よ。ま、物事良い時も有れば悪い時もあるってのは当たり前のことなんだからな」

だーはっはっは!!、と豪快に笑いだしたテオロにソポクが呆れたように溜息をついた。「そんな真面目な事考えて何ていないくせに」、とその表情が語っている。

「ま、だけどさ、これからはなるべく初めっから言うようにしてくれや。アンチャンの事を信じてないわけじゃなくてさ、アンチャンなら絶対に悪いようにしないって解ってるからさ」

再度豪快に笑いだしたテオロにつられた様に、ソポクや他の面々もうんうん、と頷いて笑い出す。見ればハクオロの表情も穏やかな笑みを浮かべていた。いつの間にか、険悪な雰囲気は消えていた。

その笑みを見つめながら、アマネはハクオロがこの村へ受け入れられた事に喜びながら、村人達の強さに感嘆たる思いを抱いていた。
今まで"彼"と契約した人間は決して悪い面に意識を向けようとはしなかった。ただ求めるばかりで、父もまた、望まれるまま与えるばかりだった。

与える事が悪いわけではないけれど、求めすぎ、とどまる事を忘れた者を待っているのはいつだって悲惨な結末だけだ。そうやって自滅した者、させられた者をアマネは数多く見てきた。
記憶が無くとも知識は失っていない父は、ここでも求められるままに人の望みを叶え続けていたようだけれど。けれどこの村の者たちはそれを良しとせず、与えられた事を自分のものにしつつ、更なる高みを望もうとしている。父に求め続けるのではなく、自分達の手で。

自然とアマネの口元に笑みが浮かんでいた。
彼が望むもの、そのもう一つを手に入れる日はそう遠くない日かもしれない。そんな希望的観測がアマネの中に浮かぶ。

目の前には仲睦まじげにモロロを譲り合う、ハクオロとエルルゥの姿があった。けれど横からそっと伸びてきた小さな手がそのモロロを取ってしまう。途端聞こえるエルルゥの怒った甲高い声と、アルルゥののんびりした声。

笑い声が満ちる。
ずっとそれが続けば良いと、アマネは願った。

あとがき
良いことばかりではないのです。
ところでこれ、夢小説ですよね…。珍獣の登場はまだでしょうか、という声が聞こえてきそうなのですが? 次です、たぶん。次にはきっと。
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