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あっという間…

「遙かなる時空の中で4」playしました。
こんなに怒涛の勢いでゲームやったの何時ぐらいぶりだろう。
ラタトクスとかはwii持ってないから、暫くやらないつもりだったので購入してみたら・・・・。

話の流れとしては、風早真EDをクリアしてもセールスポイント?の「始まりの物語」というのがよくわからないけれど…。
今までのシリーズと違った、新遙かという感じですかね。

playしてみて、最初お気に入りだったキャラがガラッと変わったのもびっくり。
滅多にないんだけどな、こんな事。

あと、忍人さんに嵌ったのは本当にびっくりした。
今まで中原さんキャラはどこか遠巻きだったので…。
あと風早がすごい好き。井上さんいい仕事してくれました。

那岐は…。ごめん、最初は好きだったんだけど、進めていく内にちょっとってなった。良い子なんだけど、人の話を聞けよ、という感じになっていまいました。

アシュヴィンは、石田さんの麗しい声がガンガンこちらを責めてくれました。
章選択によっては、仲間になったりならなかったり、何処に行ったんだと忙しい人ですが、存在感はぴか一。
彼のEDが一番ネオロマンスらしかったですね。

柊は・・・・。この人も救いないなぁ…。
でも救いEDが残されていただけでも、忍人さんよりましかも。ファンディスクとか出るのかな・・・。
出るならPS2でもちゃんと出してほしい。片方だけの機種とかはしないでもらいたいな。

あんまり時間無いけど、遙か4でネタが浮かんだし、ちょっと書いてみたいかも。
あくまでも、ちょっと・・・ですが。
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3.怨讐の音

3.怨讐の音
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屋敷に圧倒されながらも、何時までも佇んでいるわけには行かない。慣れない山道を歩いてきた為に、随分日も傾いてきた。早く真冬達を見つけて下山しなければ、このままここで夜を越す事になるだろう。

「深紅、大丈夫?」

やはり屋敷の雰囲気に当てられたのだろうか、浮かない表情を浮かべている深紅に綾は声をかけた。正直、このまま来た道を引き返してしまいたいという気持ちの方が強い。だが震えながらも気丈に振舞おうとしている深紅を放っては置けなかった。もし彼女が帰ろうと言っても深紅は聞かないだろうし、一人ででも屋敷の中に入ろうとするだろう。

首の後ろがチリチリと傷む。
こんな感じがする時は、決まって悪い”ナニカ”が近くにいる時だった。

「・・・・綾ちゃん行こう。兄さんを見つけなきゃ・・・・」

深紅の言葉には綾も頷いた。
どうか、自分の感覚が間違っている事を願いながら。


***
 

人の住まなくなった家というのは、内側から荒れ果てていくらしい。まだ堂々とした佇まいを残していた外観とは対照的に、屋敷の中は酷く荒れていた。あちらこちらに物が散乱し、ふすまや障子は破れ、嘗て其処で光をはじいていただろう白い紙も本の僅かしか残っていない。それでも基礎はしっかりしており、 一部梁が崩れている所はあるものの、いきなり屋敷が崩れるという危険性は薄い、というのが唯一の救いだろうか。

それにしても、一体何坪ぐらいあるのだろう?
外観から想像していたよりも、ずっと大きく広い屋敷に圧倒されそうになる。だが同時に、綾の中に何故という疑問がわいてくる。この屋敷の持ち主であったという『氷室』という一族は、神事を司るだけでなく、この地域一帯に勢力を持つ豪族であったという。家柄も古く、近世まで その力は変わらず続いていた。だが、突然起こった当主の乱心という事件により一族は滅び、この屋敷だけが残された。

けれど、考えてみればそれも不思議な話だ。
当主の乱心。
勿論それは一族にとっては大変な事件であったに違い無い。けれど一族が滅びる理由には決してなり得ないとも思う。当主を廃し、別な者を立てればよいだけの話だ。仮に当主に跡取りが居なくとも、これだけ大きな家だ、分家なども有っただろう。継ぐ者が無かったわけでは決してないはずだ。

運転手から聞かされた当主が一族全員を殺害した、というのも誇張なのだとは考えていた。
勿論そういった事実はあったかもしれない。
けれど他に何か・・・。

そう、彼らを巻き込んだ大きな災禍があった事は間違いないだろう。
一族全員を滅してしまえるような、大きな何かが――――

ぶるり、と体が震えた。
考えても仕方がない。綾は気持ちを切り替えるように頭を左右に振った。

「深紅、どう? 夢で見たのと同じかな?」

傍らで同じように不安げに佇んでいた深紅へ尋ねる。ここが深紅の夢に出てきたという屋敷であれば、真冬が向かった道もわかるのではないだろうか。そんな風に考えた結果だった。

「・・・うん、多分こっちだと思う。長い廊下があるはず・・・」

そういって深紅は左側を指し示す。崩れてはいたが、先に木製の扉がある。何とか進めそうな隙間も出来ていた。

「そっか・・・、じゃあ行こう。足元気をつけてね」
「うん・・・・」

屋敷の中は薄暗く、とても灯り無しに歩けるような場所ではなかったので二人は懐中電灯で辺りを照らしながら歩いていた。天井や壁に、照明設備のようなものは見当たらない。まぁ、有ったとしても使えないだろうが。だが、所々に蝋燭立てや、時代を感じさせるランプのようなものは置かれてあった。幾つかまだ蝋燭の芯が残っているものもある。つければ幾らかはこの屋敷も明るくなるだろうか、という思いに駆られたがさすがにどこかに燃え移る可能性もある為控えておく事にする。

それに、この屋敷の暗さはただ単に灯りが無い、というだけでは無い気がしたのだ。

「うわっ・・・何これ?」

キィキィ音を立てる床を踏み鳴らしながら、真冬が向かったと思われる廊下へと出た二人は、そのあまりにも異様な光景に思わず声を上げた。

「これ・・・縄? 何でこんなに沢山・・・・」

長く伸びた廊下。
恐らく二階の部屋の光がもれているのだろう。上部から薄らと光が差し込んでいる。だがその光が返ってその異様な姿を生々しく浮かび上がらせていた。高く作られた天井の板、そこから幾つもの縄が垂れ下がっていた。懐中電灯で照らしてみると、破れてはいたがどうやら紙垂(しで)をつけたものもあるようで、もしかしたら神事に関わりあるものかもしれない。だが暗い天井から垂れ下がる縄は、まるでこの廊下を通る者を捕らえようと待ち構えているようで、時々隙間から吹く風に揺れてユラユラと動く様子がまた更にそんな思いを上長させていた。

「趣味悪・・・」

怖い、と口に出したら返ってその思いに支配されてしまいそうで。けれど何か口に出さないと、更にこの場の雰囲気にのみこまれてしまいそうだった綾は、やっとそれだけを口にする。だが、そんな綾の後ろから廊下の様子を見ていた深紅が急に「あ!」、と声を上げた。

「カメラ・・・、兄さんのカメラだわっ!!」
「え?」

見れば廊下の丁度中央にぽつん、と何か四角いものが落ちている。自分達が良く見る、現在の形とは違う、骨董品店や博物館に並んでいそうな、古い形をしたもの。大きさも形も無骨で、見るからに重そうではあったが確かにそれはカメラだった。

「あ、深紅っ!!」

それを認識した瞬間、深紅が走り出した。
綾が止める暇も無く。

「待って、深紅! それに触らないで!」

慌てて綾も深紅の後を追う。恐怖心や何かあるかもしれない、という不安感は吹き飛んでいた。ただ、深紅があのカメラ-射影機-に触れさせてはいけない、という思いだけが彼女の中にあった。もしあれが真冬の持っていたものであれば、それは間違いなく、彼らの母親、雛咲深雪の持っていたものであろう。 

『姉さんはあのカメラを持ってからおかしくなった・・・・』

嘗て父親が言っていた言葉が蘇る。
だが止める言葉もむなしく、深紅は射影機を拾い上げてしまった。
途端、深紅の体がビクッ、と大きく震えた。

「深紅っ!!」

慌てた綾が、直ぐに深紅の手から射影機を離そうと手を伸ばす。だがが射影機に手を触れた瞬間、彼女の脳の中に映像のようなものが流れ込んできた。

暗い廊下を必死で走る青年の姿。
何かから逃げるように、青年は必死で走りながらも、時々後ろを振り返っている。

走って、走って、走って――――――

後ろから伸びてくる白く長いものを振り払う際、青年の手から四角い物が滑り落ちた。ガシャンッ、と硬質な音が響く。青年はそれを気にしながらも、既に真後ろまで迫ってきている”ナニカ”に阻まれてそれを拾い上げる事が出来ない。再び彼は背を向けて走り去ろうとする。

『待って――――――』

違うと感じながらも綾は叫んでいた。
この映像は自分が見ているものではない。恐らくこの射影機に残されていた真冬の思念が深紅を通してにも流れ込んでくるのだろう。 

『待って―――、そっちに行ったら駄目―――――! ”ナニカ”居る!!』

けれど解っていても言わずにはいられなかった。
真冬が向かおうとしている先に、彼を追っている存在よりももっと強い、酷く怖い”ナニカ”がいる。
行ってしまったら、真冬は戻ってこられない。漠然としか感じられなかったが、それはにとっては確信に近い思いだった。

『行かないでっ、行ったら駄目! 真冬さんっ!!』

観えたときと同様に、唐突に映像は途切れた。
再び自分の目で捉えた景色の様子に頭と心が付いていかず、きょろきょろと辺りを見回し、自分が本当にここにいる、という事を確認しなければならなかった。

「・・・・・・・・今の・・・何?」

自分の発した声で漸くこれが現実なのだと認識する。
伸ばした手の先から、僅かな振動が伝わってきた。それが深紅の体の震えだと気づいた綾は、漸くそこに自分以外の存在が居た事を思い出した。

「あ・・・、深紅、平気?」

綾にも深紅や真冬と同じ、霊感というものがある。”アリエナイモノ”を見る力も決して弱くはない。けれど、現実と非現実の認識が取れなくなるほどはっきりとした 映像-恐らくこの射影機に残っていた真冬の残留思念-を見るなどということは初めてで。頭の中がどうにもはっきりしなく、気持ちが悪い。

自分でさえこうなのだから、深紅はもっと酷い不快感を感じているのかもしれない。
力なく床に座り込む深紅は、どうやら泣いてもいるようで。射影機を抱え込みながら、『兄さん・・・』と何度も呟いている。

とにかく霞む頭をどうにかしようと、頭を強く左右に振り、もやを振り払おうとした。
だが、ふと横にそれた視線の先に映ったものに再びビクリ、と体を硬直させてしまう。

二人がいるのは廊下の中央部。何の意味があるのかは知らないが、この廊下の右側には大きな鏡が取り付けられていた。それが丁度、綾や深紅のいる場所であり、姿見よりも大きな鏡が彼女達の姿を映し出していた。だがほの明るい光の中、映っていたのは自分達だけではなかった。綾の左隣、肩の丁度後ろの辺りに、白地に花模様の描かれた振袖を着た、髪を肩より少し先で切りそろえた少女が立っていた。慌てて視線をそちらに向けるが、少女の姿は何処にも無い。だが、鏡の中には確かに着物姿の少女が立ってこちらをじっと見つめていた。

「っ!!」

思わずぎゅっ、と深紅の肩を掴む手の力を強めてしまった。痛みを感じたのかもしれない、深紅が赤く染まった瞳をのろのろとの方へ向ける。だがの視線と、鏡に映っている者の存在に彼女もまたビクリ、と身をすくませた。

「綾ちゃん・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」

本能的な恐怖。
居るはずの無いものが其処にある、というありえなさが一瞬身を硬くさせたものの、鏡に映る少女はただ二人を見つめてくるだけで、それ以上のことは何も起こらない。不思議な事に、最初のありえなさに慣れてくると、二人ともその少女を恐ろしいとは思えなくなっていった。それには少女の纏っている雰囲気、自分達を見つめてくる眼差しがどこか物悲しさを含んでいるように感じられたからかもしれない。

「深紅・・・立てる?」
「う、うん・・・。綾ちゃん、これって・・・」

だがいくら恐ろしく感じはしない、といっても目の前の少女が『ありえないモノ』であるという事には変わりは無かった。とにかくこの場から離れたい、という思いから綾は深紅に立ち上がるように促す。だが次の瞬間、それまでこちらをただ見つめてくることしかなかった少女の口が動いた。

「え・・・?」

声は聞こえない。
直接脳内に響いてくるような、強いて言うのであれば音波のようなもの。
だがそれははっきりと一つの意味を持って二人の中に届いた。 









途端、を襲ったすさまじい悪寒と恐怖。

「深紅っ、走ってっ!!」

少々無理やりではあるが、深紅を立ち上がらせると彼女の腕を握ったまま走り出す。
次の瞬間、悪寒が更に強く彼女の中を走り抜けた。

「ひっ!!」

深紅も感じているのだろう、綾の手が強く握りしめられる。
鏡から、壁から、後ろから、白く長いものが幾つも幾つも伸びてくる。それは逃げる二人を捕まえるように、伸ばされた人の腕。ありえない長さではあるが、確かに5本の指をもったそれは必死で逃げる二人へと次々に伸びてきた。

「きゃあっ!!」
「深紅っ!!」

何かに足をとられ、深紅が床に転倒する。みれば床から伸びた白い指が彼女の足首に絡み付いていた。

「いやあ・・・っ!!」

二人の動きが止まったのを良いことに、次々と手が追いすがってくる。
足に、腰に、腕に―――――

「いやっ、近寄らないでっ!!」

身をよじって振りほどこうとするが、手は一向にひるまず向かってくる。腕に絡み付こうとしてきた手を振り払おうと、指が触れた瞬間、何かの声のようなものが中に流れ込んできた。 

イタイ――――

ビクっ、と恐怖とは違う感覚が綾の体をこわばらせる。普通に聞こえる声とは違っていたが、それは甲高く、幼ささえ感じさせた。まるで、子供の声のように。そして良く見ると全て同じかと思っていた白い手は、太いもの、細いもの、小さいものと様々で。ペタリ、と全く体温が感じられないそれが体の何処かに触れるたびに、二人の中に声のようなものが流れ込んでくる。 

ドウシテイタクスルノ―――――

クルシイ――――――――――ナゼキルノ

ヤメテ―――コロサナイデ 

ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ、ヤメテ―――――――――――――― 

イタイヨ―――――――――
 

「あ・・・・いやっ、いやあぁぁぁっ・・・・・・・・!!」
 

触らないで、聞かせないで。
こんなもの、こんなの――――。

男も女も子供も老人も。
誰のものかも解らない声が幾つも幾つも流れ込んでくる。
どれもこれも苦しさや痛みに満ち溢れていて、体にではない痛みをの中に残していく。

「離してっ!!」

首元に伸びてきた腕を振り払おうと、思わずそれを掴んでしまった。冷たいぐにゃりっ、とした感触を感じたが、次の瞬間それはポロポロとの手の中から崩れていく。まるで水分を失った菓子のように。

「えっ?」

だが驚いたのは彼女だけではなかった。粒子となってその腕が消えた途端、どれほど身をよじっても全く緩まなかったそれらの力が緩んだのだ。自らを掴む冷たい感触に、僅かな隙間ができた事に気づき、直ぐ様体を大きく揺り動かし、未だに絡み付いていた腕を払った。

「深紅っ!!」

自由になった足で、直ぐ様深紅に近づくと、彼女の足を掴んでいる"モノ"へと手を伸ばした。強く握りこむと、やはりそれも白い粒となってぽろぽろと消えていく。腕が完全に粒子になると、綾は深紅の腕をとって再び駆け出した。だが、逃げ出した二人に触発されたのか、それらも再び勢いを持ち、追いかけてきた。

それでも警戒しているのか、先ほどまでの勢いは感じられなかった。
逃げ切る事は可能だろう。
だが、何処へ? 一番安全なのは屋敷の外へ出てしまうことだろうが、入り口への道はあれらが塞いでしまい通る事は出来ない。このまま屋敷の中へ進んでしまってよいのだろうか? 躊躇う思いが頭の中に浮かぶ。そんな時、握り締めていたはずの深紅の腕がするり、と手から抜けていくのを感じた。

「深紅っ?」

驚いて後ろを振り向いた。だが、深紅はその声に振り向かず、ゆっくりとだが逃げてきた方向へと歩いて行っている。先ほど拾った射影機を構えながら。

「深紅、何をしているのっ!?」

呑気に写真撮影なんかしている時か、と慌てて駆け寄ろうとした綾の前を一瞬眩しい光が走った。それが射影機のフラッシュだと気づくには、多少時間がかかった。目の前で再び信じられない光景が始まったからだ。フラッシュが光った瞬間、深紅にまとわり付こうとしていた白い腕が後ろに吹き飛ばされたようにのけぞった。まるで波の動きを受けて動く海草のようだと、その奇妙な光景を分析してしまうあたり、かなり頭がまともではないのかもしれない。

次の瞬間、腕から白い光のようなものが次々に溢れてきた。蛍の光のような粒上のそれは、次々に現れては深紅の持つ射影機のレンズの中に消えて、いや吸い込まれていく。同時にあれほどはっきりとしていた腕の方はどんどん薄くなっていき、最後には全て吸い込まれ――――――――。
 

消えた。
 

「・・・・・・・・・・・・・・・深紅?」

一体何が起こったというのだろう。
射影機が、霊を吸い取ったように見えた。アリエナイものを写すカメラ、それが射影機。少なくとも、綾はそう認識していた。だが、それだけではなかったのだろうか?

「・・・・・・・兄さんもこうやって、この射影機を使って霊を封印していたの・・・・・・・・・」

さっき、それが見えたわ、と深紅は呟いた。
ゆっくりと深紅がの方を向く。未だ少し瞳が赤い。

「悲鳴が聞こえた・・・・・・霊が吸い取られている間、止めてくれって。痛いって・・・・。綾ちゃん・・・・・・」
「深紅っ!!」

ずるずると力なく床に座り込む深紅をは慌てて支えた。

「痛いのに・・・苦しいのに、何で、って・・・・・・・何で苦しめるのって・・・・・・・・」

ヒックヒックとしゃくりあげながら、深紅は言葉を続ける。
悲しみや苦しさを言葉として吐き出しているように。

「深紅、良いから。もう良いから、こんなものもう使わなくて良いから、ね。もう大丈夫だから」

深紅の細い肩を抱きしめながらは必死で言い続ける。
深紅にはもうこの射影機を使って欲しくなかったし、関わって欲しくなかった。 

射影機-アリエナイモノ-を写し取るカメラ。
霊を封印する力のあるカメラ。 

『姉さんはあのカメラを持ってからおかしくなったんだ・・・・・・』 

父親の言葉がの中に蘇る。
深紅の母親、深雪は―――――――――― 

 

この射影機に殺されたのだ。 

只今、ちょこちょこ修正中です。

「桜-貴女に微笑む・精神美-」

※キャラクターの性格が原作と滅茶苦茶違います。特に紗重さん。
イメージを壊したくない方は、このままお戻りください。

「桜-貴女に微笑む・精神美-」


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「大切にします・・・・、ずっとずっと・・・・。一生大切に持ってます」 

自分の渡した髪飾りを握り締め、彼女は微笑んでくれた。
一生の宝物にします、と言ってくれた事も嬉しかったけれど。
彼女が微笑んでくれた事。喜んでくれた事。

その事が一番、嬉しくて。
その微笑は、自分の記憶の中の一番の宝物にになった。 

 

***
 
 

「絶対に間違いないわよ! 本当に見たんだから!」 

夏に入りかけた日の午後。暑くもなく、かといって涼しいというわけでもない。日差しは少し暑く感じられるものの、吹く風は梅雨の名残を残しており、冷たさを含んでいる。

何時もの通り、”彼女”が作ってくれた昼ごはんを食べて。普段は自分達の傍を離れない妹の千歳は、この時間は昼寝をしているし。自分達の家に滞在している親友の青年は、昼食の後直ぐ外へと出て行ってしまっているし。

特に何もする事の無いまま、のんびりとした時間を過ごしていた立花兄弟の下に台風が飛び込んできたのは本の30分ほど前のこと。着物の裾を振り乱しながら、幼馴染の特権を利用し他人の家の奥まで突進してきた台風は、二人が良く知る少女。その名前を黒澤紗重といい 、立花兄弟にとっては、ある意味ハリケーンよりも地震よりも、どんな天災よりも恐ろしい少女だった。

「ちょっと、何なのよこのナレーション! 人を勝手に天災呼ばわりしないでちょうだい!」
「・・・・何に突っ込みいれてるのさ、紗重・・・」
「人外魔境に足を踏み入れてると思ってたけれど、とうとう足だけじゃなく全身どっぷり漬かっちゃったみたいだね・・・」

幼馴染の気安さか、はたまたある意味、”彼女”を巡って非常に特殊な関係のせいか兄弟達の言葉に容赦というものは無い。だが何時ものことなのだろう、紗重は特に気にした様子もなく。

「そんな事より、樹月君、睦月君、私の話ちゃんと聞いてるの?」

可笑しな突っ込みで自分から話を脱線させたくせに・・・。
っていうか、俺達の穏やかな時間を返してくれ・・・。

と、内心は不満だらけで、突っ込みを幾つも入れるものの(勿論心の中で)、「聞いているよ」、と先を促すのは紗重の言葉に”彼女”の名前が出ていたからだ。

「聞いてるって、で? 綾と宗方がどうしたって?」

どうも真面目に聞く気が感じられない睦月の言葉に紗重はムッとした表情を浮かべながら、それでも胸の内を吐き出してしまいたいのだろう。漸く口を開き出した紗重に二人はやれやれ、と内心でため息をついた。だが彼女の口から語られた内容に二人にも思いがけないことだった。

「だから、宗方君よっ! あのヘタレ、八重だけじゃなくって、綾にまで手を出してたのっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」

つい固まってしまったのは、仕方ないだろう。それでも何とか立ち直ったのは、普段から冷静沈着と言われる樹月だった。

「・・・・・・・紗重、夢見るんだったらせめて、自分の家の中で誰にも迷惑かけないように準備してからにしてくれないかな」
「ってか、夢だってありえないだろうが。紗重、いくら何でももうちょっと信憑性のあるもの見るべきだと思うぞ、俺は」
「だからっ、本当に見たって言ってるでしょうが! ちょっとは人の話信じなさいよ!!」

で、冒頭の台詞に戻る。
そもそも紗重もたかが夢であれば、これほど大騒ぎはしないだろう。嫌な夢を見た、と感じるではあろうがそれだけだ。本物の綾の顔をみれば、そんなもの直ぐに忘れてしまえる。けれど、ただの白昼夢だと、幻だと思いきれるほど紗重は楽観主義者ではないし、夢想家でもない。むしろバリバリの現実主義者だ。

「・・・・だってねぇ。綾と宗方って組み合わせからしてもうありえない事だしね」
「あの宗方に二股かける甲斐性なんて無いだろ。大体、あいつ八重にさえ自分の気持ち言えてないじゃないか」

親友が語るとは思えない、宗方青年にとってはかなり酷い言われようだが、本当のことだから仕方が無い。紗重にとっても、二人の言葉は本音だったようで。うんうん、と納得している部分さえある。

宗方良蔵が紗重の双子の姉、八重に少なからぬ思いを寄せている、という事は樹月、睦月と紗重。そして今はここにいない綾という幼馴染達にとっては周知の事実だった。八重自身にその事は伝えられていないものの、彼女も宗方の事を悪くは思っていないようで。だったらさっさと言ってしまえば良い、と周囲は思うものの(紗重は除く)、肝心の宗方が中々踏ん切りを付ける事が出来ないでいるのだった。

「だって聞いたし、見たんだもの! 宗方君が綾に櫛を渡して、笑い合ってたのを!」
「そりゃあ、笑うだろうね。友達なんだし」
「綾が物を貰うなんて珍しいけど、宗方って来るたびになんだかんだ土産物持ってくるじゃないか。紗重だって貰った事あるだろ」
「違うわっ、その時の綾の顔、本当に嬉しそうだったもの! あれは恋する乙女の表情よ!」
「・・・・・・・・・・・・やっぱり夢だ」
「・・・・・・・・どんな根拠だよ、一体」

訳のわからない根拠を連発する紗重に樹月も睦月も呆れた様子だった。

「第一、仮に宗方が綾に言い寄ったとしても、八重の気持ちを知ってる綾が応えるわけないと思うけど」
「綾って滅茶苦茶そういうとこ硬いもんな」
「甘いわね、恋は良識だろうが人種だろうが、国も性別も超えるものなのよっ!!」
「・・・・・・・紗重が言うと、説得力あるね」
「・・・・・・だな」

これが八重の事であっても紗重は同じ反応をしただろう。 どうもこの幼馴染の少女は、双子の姉である八重と綾に異常なほど好意を持っている。宗方が八重に近づこうものならば、全身全霊をかけて威嚇は勿論、それこそ何が何でも邪魔をするし。樹月と睦月が綾に近づこうとするのであれば、これまたやはり、射殺さんばかりの過激な妨害をしかけてくる人物なのだ。

大方、二人が自分の知らないところで会っていた事が悔しいのだろう。勿論自分達とて良い感じはしないがそこまで彼女の行動を制限する権利は自分達には無い。たとえば恋人同士であっても(違うけれど)。彼女が、立場上、彼らに従事する身であっても、だ。

綾が立花家にやってきたのは、千歳が生まれた直後のこと。綾の母親が亡くなり、身寄りが無くなった彼女を父親の守一が引き取ったのだ。今よりも幼く、まだ身体が丈夫ではなかった睦月の世話係として。彼らの母親が亡くなった後は、千歳の子守もかねるようになり。今では立花家の家事全般を取り仕切る身である。

守一が、綾を初めて立花家に連れてきた日のことを、樹月も睦月もまだよく覚えていた。彼女の身体は、同年代の自分達と比べても、余りに細くて小さくて。来ていた着物が紺色だった、ということもあるのだろうけれど、肌が異様なほど白かった。人形のように大きな瞳と赤い小さな唇。けれどその瞳には何の色も浮かんでは無かったし、唇は言葉を発する事も、形作ることも無かった。

無表情で、無口。
整った顔をしているだけに、それは更に際立っていた。
そう、本当に人形のような少女だった。

後から父親から聞いた話では、彼女は特殊な生まれをしていたそうで、そのせいで親戚や村人から良い扱いを受けられなかったらしい。母親も綾を生んだ直後から身体を壊し、充分に娘を護ってやることが出来なかった。自然と家の中に居る事が多くなり、話す相手も母親だけ。父親は村の外の人間で、綾が生まれる前に亡くなっていた。極力他人と接しず、ただ一人で過ごすことの多かった綾はどうやって他人と接すれば良いか解らない子供だった

立花家にやってきた当初も、よく働くし、話しかければ返事もする。けれど、それだけだった。笑う事もないし、自分から話すこともない。そんな彼女に、樹月も睦月もあれこれと気を使い。暫く後に、紗重と八重も加わって。漸く笑ってもらえるようになった。

初めは手のかかる妹に対するようだった感情も、段々と別なものへと変わっていき。八重はともかく、紗重が綾に対して異常な思いを抱くようになったのは想定外であったが。歳を重ねる毎に綺麗に変化していく綾に、悪い虫が付かないように蔭でこそこそと涙ぐましい努力などして。それこそ大切に護ってきた彼女を紗重は勿論、例え親友であろうとも渡す気は無いが。

それでもやっぱり、自分の意思で選んでもらいたいと思うのが男心というものだろう。綾と宗方が・・・という紗重の話を信じるつもりはないが、他人が見ているほど平静でもいられないのが実情という所だ。早く綾の姿を見て、安心したい。彼女がここにいる、という事を確認したい、とそう思う。

けれど、望んだ少女の足音の代わりに、聞こえてきたのは思い人のではなく、それより小さなトテトテという擬音語が似合いそうなもの。

『綾おねーちゃーん、どこー? お着物着るの手伝ってーー!!』

家の二階から聞こえてきた小さな声。妹の千歳のものだと直ぐわかった。どうやら昼寝から覚めたようだが、珍しいな、と樹月達の間に僅かな疑問が生まれる。何時もなら千歳が起きる頃を見計らって、綾が千歳の部屋へ訪れているはずなのに。暫く様子を伺っていたが、トテトテという軽い足音が聞こえてくるばかりで、千歳の声に答える者はいなかった。

『おねーちゃーん・・・・・・、どこ・・・・?』

声のトーンが変わってきた。そろそろ泣き出す一歩手前だと判断した樹月が腰をあげる。そのまま二階へと上がっていった彼は、暫くした後、千歳をその腕に抱きながら睦月たちのいる部屋へ戻ってきた。

「あ・・・」

樹月の腕に抱かれながら、部屋へと入った千歳は、中にいるのが睦月だけでなく、紗重までもいたことに不満の声をあげた。勿論紗重もそんな千歳の反応に慣れているのだろう、気にした様子もなくお茶をすすっている。千歳にとって、綾は姉であると同時に、母親代わりでもあった。そんな彼女に何かとちょっかいをかけてくる紗重は、面白くない存在なのだろう。彼女が紗重に突っかかって行く光景は 立花家で既におなじみのものになっていた。

「樹月おにいちゃん・・・・」

むくれた妹の声に樹月は苦笑をもらしながらも、彼女を抱えたまま睦月の隣へ腰を下ろす。

「よく眠れたか、千歳」

ポンポンと睦月が小さな頭を叩いてやると、千歳は「うん!」と明るい声を上げた。だが目当ての人物が室内にはいないことを知ると、直ぐにシュンとした表情になる。

「お兄ちゃん・・・、綾お姉ちゃん何処・・・?」
「さぁ・・・、買い物にでも行ったのかな?」
「大丈夫、直ぐに戻ってくるよ」

大好きな二人の兄に優しく諭されて、千歳も漸くその顔に笑みを浮かべた。ふんわりとしたその表情に、兄二人の表情も自然と穏やかなものになる。だが―――

「そうだね。綾お姉ちゃん、また良蔵お兄ちゃんと一緒なのかな。じゃあ、直ぐに帰って来るね」

無邪気な妹の言葉に、一同は一瞬で固まった。

「・・・・・・・・千歳」
「なーに、樹月お兄ちゃん?」

きょとん、と首をかしげる千歳には嘘や冗談を言っている様子はなかった。

「綾が宗方と一緒って、本当?」

僅かにトーンの下がった兄の声に、気づく事もなく。千歳は無邪気な笑みを浮かべたまま、兄の質問に大きく頷いた。

「うんっ! 昨日もその前も、一緒に出かけてた!」
「へ~~~・・・・・・」
「昨日・・・昨日もその前も・・・って、それで何度会いに来てもいなかったのね!! 宗方君の分際で生意気なっ!!」
「これって、ひょっとすると・・・・ひょっとするって展開? うわぁ・・・、一番の害虫が身近にいたなんてね・・・・」

ちなみに上から、樹月、紗重、睦月の順番。
紗重からは既に、赤を通り越して黒いオーラが出ていたりなんかしている。

「千歳、その話もっと詳しく聞かせてくれないかな?」

普段は穏やかだが、怒るととっても怖い立花兄(樹月)が、ニコニコと笑みを浮かべながら妹に問いかける。だが千歳は兄の言葉に、「ん~」、となにやら考えている様子だった。

「ん~~っとね、駄目なの。詳しくお話できないの」
「何で?」
「だってね、綾お姉ちゃんが、誰にもお話しちゃ駄目なのって言ってたから」

ピシピシッ・・・、と何かに亀裂が走るような音がした。

「・・・・・・・樹月君、湯のみに皹が入ってたわ」

紗重の持っている湯のみは、皹どころか真っ二つに割れていた。だがそれを咎める者は誰もいない。湯のみの一つや二つの事で構っている自体ではないのだから。

「千歳、それ本当に綾が言ったの?」
「うん。樹月お兄ちゃんと、睦月お兄ちゃん・・・後ねえ、紗重と八重には絶対に言ったら駄目って」
「おいおいおいおい・・・・マジかよ」
「うふふふふふ・・・・・・・・、ぬかったわ。私とした事が・・・あのヘタレっぷりについ騙されて・・・」

あわれ、宗方。
紗重の中では、制裁を加える事は既に決定事項。樹月や睦月の中でも宗方に対し、何等かの報復を与える事は確定済み。だが、それよりも二人は信じられない、というより信じたくないという思いのほうが強いらしく。怒っている、というよりも困惑した表情を浮かべていた。

「何が良いかしら・・・・・、やっぱり二度と八重にも綾にも近づけないような、きっついお仕置きじゃないと。私の気持ちも治まらないし・・・」

手っ取り早いのは、やっぱり黒澤家に連れ込んで・・・・・、あれも、これも・・・・・・、と物騒な事を言い出した紗重を止めるものは誰もいない。千歳は自分の言った事が二人の兄と、紗重にどんな影響をもたらしたかが解らなくて、きょとんとしていたし。樹月も睦月も困惑する感情を整理することに忙しく、紗重に構っている余裕など無かった。

あわれ、宗方の命は風前の灯・・・・・。
だが、その時聞こえてきた聞き覚えのある声が、彼を救った?




零に出てくる、とあるアイテムに関する設定を読んで思いついた話です。もうちょっと真面目な感じになる予定だったのに・・・ 。何か、紗重さんの性格違いすぎですね・・・。ちょっと遊びすぎました。紗重さんは基本は、とても優しい良い子だと思います。ただ、自分の感情をコントロールするのがあまり上手くないのでは、とも感じていたので。
番外編は過去話を中心に書いていくるもりなので、そういったことも書いていければと思っています。後編は、宗方×八重になると思います・・・・多分?

2.樹陰

2.樹陰
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やっと、見つけた―――――――
愛しい貴方―― 

これからはずっと一緒――――――――――――
ずっと――――
一つになって――――――――ずっと、一緒――――――



***



『氷室邸』

それは嘗て、氷室という祭司をつかさどる一族が住んでいたという屋敷の名前。山の奥深く、まるで隠されるかのように佇むその屋敷の存在を今はもう知るものは少ない。ただ、麓の町で何か手がかりはないか、と綾たちが情報を集めていた時、既に80は超えているだろうという老女がぽつり、と言った。

『あそこは呪われてるんだよ・・・・』

と。

驚きながらも詳しく聞こうとした二人であったが、老女はもうそれ以上何も言う気はなかったらしく、それっきり口をつぐんでしまった。途方にくれたものの、何分小さな町だ、余所から来た者は目立つし、真冬や準星たちの足取りはその後直ぐに見つかった。さすがに屋敷前まで、とは行かなかったが、タクシーでかなり近くまでは行って貰えるということだったので乗せてもらうことにする。運が良かったのか、タクシーの運転手から少し前にやはり同じ所まで他所から来た者達を乗せたという話を聞くことが出来た。3人、という事だったのでそれは真冬ではなく準星たちの一行なのだろう。

「東京の結構有名な作家さんだって、言ってたなぁ・・・。取材だって聞いたけど、何であんなところへ行くんだって随分不思議に思ったもんだ」
「屋敷の事、ご存知なんですか?」

深紅が尋ねる。だが運転手は首を振った。

「いやぁ、ってかそんなところに家があったなんて初めて知ったさ。ああ・・・・でも・・・」
「でも?」
「むか~し、そういった偉い神主さんみたいな一族が居たってことは聞いたことあるな。随分昔に爺さんが話してくれたことがあった。だけど、当主が何か錯乱して一族全員を殺しちまったって」
「!!」
「まぁ、よくある昔話だけどな。だからいい子にしてないと、そいつがお前の首を取りに来てしまうぞーって何度も言われたっけな」

はははっ、と運転手は軽く笑ったが。綾と深紅はとても笑える気分ではなかった。その話が真実か、そうでないにしろ、これから自分達が行こうとしている場所で、そんな事が起こったと言われて気持ちよくなる者はいないだろう。

だが行かなければいけない。
真冬がそこにいるかもしれないのだから。 

車の振動とは違う震えが体の中から湧き上がってくるようだった。それは隣に座る深紅も同じであったようで、彼女の方が何かしら感じ取っているのか顔色も悪い。それでも必死で恐怖を払拭しようとしている深紅がいじらしく、綾はそっと深紅の肩を抱いた。自らの抱く恐さが、それで払拭できるように、と願いながら。


***
 

歌が聞こえる。
子供達の幼い声で幾つも幾つも。
 

次の鬼はだあれ・・・?
次の姫はだあれ・・・・?
 

幼い声が幾つも幾つも、耳にこびりつく。
鬼を探して、永遠にさまよい続ける子供達の声が―――――――――。

 

タクシーを降りてからどれくらい歩いただろうか? 手入れなどされていない道は歩きにくく、舗装された道路を歩く時の何倍も時間がかかる。道を遮るように生い茂る草木を払いながら二人は進んだ。時折鳥の声が聞こえてくる以外は全く人の気配が無い山中の様子は、本当にこんなところに屋敷があるのかとさえ疑いたくなるほどだった。

「深紅、大丈夫?」

後ろを歩く深紅を気遣いながらも、綾もかなり限界に来ていた。体力的には自信があるが、正直こんな山中だとは思わなかった。わかっていれば、もう少し歩きやすい服装を選ぶんできたのに、と後悔の気持ちがわいてくる。都会に住んでいると忘れてしまい勝ちになるが、人の手が全く入っていないう場所というのは何処か人の進入を拒んでいるようにさえ感じられる所がある。

島国であるこの国ならではの考えなのだろう。外界に通じる場所、たとえば海などは嘗て人ならざる者達の住む場所、異界に通じる場だとされていた。海から来るもの、様々な漂流物、それは植物や遠い国の存在を示す物であったり。果ては水死者まで人はそれらを異界からのものとして恐れ、敬ったという。

海が魔と繋がるイメージが強い事に対し、山はどちらかというと神聖なイメージが浮かびやすい。海よりも人の身近にあり、様々な恩恵を授けてくれる山々を人は神と崇め、そして敬った。けれど、どちらも人にとっては大きく、理解できないものであった事は間違いないだろう。

大きすぎて、恐ろしすぎて。
だから敬い、奉り、そうして自分達に厄が降りかからないように願った。

西洋の文化が入り混じるようになった現在のこの国では、そのような風習や考えは一見薄れてきているように見えるものの、そういった恐れや敬いという感覚は、実は私達の中、血や記憶というものの中に既に溶け込んでしまっているのかもしれない。

暗いところが怖い
木が鬱蒼と生い茂る森が怖い
足の付かないほどの深さを持つ海が怖い

どんなに払っても
どれだけ人工的な光で照らしても

きっと永遠に私達は恐れ続けるのだろう。
姿の見えない”何か”を。

「・・・・綾ちゃん、あれじゃない?」

深紅の小さな声が指し示した方へ綾は視線を向けた。見れば、道を覆いつくさんばかりに生い茂っていた木々が、そこからは急にぽっかりと開けていた。変わりに見えてきたのは灰褐色の大きな石を組んで作られている頑丈そうな塀と、その中央に佇む古びた門。その少し上に瓦を敷いた屋根の尖塔が小さく見えている。

「・・・あれ、なのかな? そうだよね・・・」

まるで自分に言い聞かせるような台詞を綾は何度も呟いた。こんな山中に家が幾つも有るわけが無い。だとすれば、今目の前にあるのが真冬達が向かったという”氷室邸”に間違いないのだろう。だが、目的の屋敷が見つかってよかった、という気持ちは全く浮かんでこない。反対にそうであって欲しくないという気持ちの方が強く感じられる。

屋敷に近づけば近づくほどその気持ちは大きくなった。
外観がはっきりしてくるにつれて、夢の中の女性の言葉も蘇ってきた。

「あれが・・・・?」
「うん、間違いないよ・・・・夢で見たとおり・・・・・・」

深紅の言葉に綾も頷く。
其処には、夢で見たのと寸分違わない巨大な屋敷。 

”氷室邸”が其処にあった―――。
 

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氷室邸みたいなのが近くにあったらその町いやだろうなぁ・・・。ということで山の中に建っていてもらうことにしました。ゲームでも結構山深い中にあったような気がしましたし、神社というイメージでもその方が良いかなと。

1,夜に消えゆく

1.夜に消え行く 
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遠い異国で、電器というものが発明されてからどの位が経つのだろうか。少なくとも、その人工的な明かりが人々を暗闇の支配から解き放ってから100年以上は経っていないだろう。

恐れながら、憎みながら

常に傍らにあった闇は人々の英知によって遠ざけられたように見えた。
けれどどうだろう。
人の密集する都心から少し離れれば、この国には未だ闇が支配する土地が無数に存在する。

ザワザワと風が木々を揺らす。明るい光の下ならば何でもないその行為が、闇の中では酷く恐ろしいものに感じられてしまうのは何故なのだろうか。さくさくと音を立てながら舗装されていない道を歩く。行く手を遮るように生える草を手で払いながら、いっそのことこんな中途半場ではなく、もっときちんと行く手を塞いでくれれば良いのに・・・。
そんな風に考えてしまった事に青年は苦笑をもらした。
数ヶ月前から行方がわからなくなっている知人の足取りがつい先日漸くつかめた。仕事の場だけでなく、プライベートでも親しく付き合っていた彼が取材に行くと言って出かけたのが4ヶ月前。作家という職業柄、取材であちこちへ訪れていたし、それが長期になり、一月ぐらい連絡がつかなくなることは以前にもあったから、最初の内は心配などしていなかった。だが、同行していた秘書、そして雑誌編集者までも行方が解らなくなったと聞いたとき、誰もが彼の身に何か起こったと理解し、捜索が始まった。

ジャーナリストという仕事を生業として選んでいた自分も、持てる限りの情報とネットワークを使って彼の行方を捜した。そしてたどり着いた、一軒の屋敷の噂。嘗て『氷室』という一族が住んでいたという屋敷が東北の山中の中に未だ現存しているという。『氷室家』はどうやら神事を行う家系であったらしく、代々の当主は神主として何年かに一度『儀式』を行っていたらしい。

だが、地方の大きな家にはありがちな事だが、彼らは閉鎖的な家柄だったようで、その儀式がどのようなものなのか。そして何を祭っていたのかという記録や資料は全く残されていなかった。知人はミステリー作家として名を上げていたが、民俗学や歴史に造詣が深く、時折その関係の仕事も受けていたから、今回もその関係で『氷室家』に取材にいったのだろう。

そうして、そこで消息を絶った・・・・。 

時折、木々の間からほんの僅かに降り注いでくる月の明かりと、手に持つ懐中電灯が果てない闇の中を歩く青年の唯一の命綱のように思えた。なんとも心もとないものだ、と苦笑をもらしながらも青年はそれでも足を進める。やがて鬱蒼と生い茂っていた木々の姿が消え、開けた広場のような場所に出た。

「あれが・・・」

ぽつり、と青年が呟いた。嘗てこの辺り一帯を治めたという氷室の一族。
その力を示すかのような、巨大な屋敷がそこにあった。

 

*** 

 

キリリ・・・と、限界まで弦を引く低い音が響く。『離れ』(発射)まで一歩手前という、このピンと張り詰めた感触が綾は好きだった。ビンッと限界まで張られた弦が少女の手から離れた。同時に放たれた矢が真っ直ぐに的へと飛んでいく。

タンッ、と木と木がぶつかり合う音が演習場に響く。紅い羽のついた矢は正確に的の中央を射抜いていた。途端、わっと歓声が湧き上がる。

「きゃあっ、さすが高倉先輩!!」
「あの方だけよ、女子で近的も遠的も正確に射抜けるの!」
「綾せんぱーい、こっち向いてくださ~い!!」

それまでの静寂が嘘のように、湧き上がった黄色い声。だがそれを受ける少女は、意に関した様子などなく 、何の表情も浮かべないまま構えていた弓をゆっくりと下ろしていく。弓道は矢を放って終りではない。精神の修行になるという言葉をよく聞くが、一見簡単な動作を繰り返しているように見える和弓にも細かな動作の規定がある。矢を離した後、少なくとも残心、弓倒し(ゆだおし)と、二つ以上の動作を行な ってからでないと終了とならないのだ。

ほうっと息を吐きだし、少女は漸く射位置から体を離した。身を翻す動きに合わせ、頭の上部で結わえられている黒く長い髪がさらりと揺れる。凛々しいその姿に観客からは再び歓声が沸きあがったが、彼女はそれに答えず、むしろ煩そうに顔を僅かに歪めながら、そそくさと休憩用のスペースへと入っていった。

タオルで汗をぬぐっていたところ、後ろで廊下に通じるドアが開く音が聞こえた。誰かが室内に入ってくる気配を感じ、僅かに体を強張らせながら顔を上げるた。額に汗を浮かばせた青年が、かばんの中からタオルを取り出している姿が目にはいってくる。

それが知人の青年-神田俊明-だという事に気づいた綾は、小さくため息を吐き出すと、漸く体の強張りを解く。弓道部の練習場があるこの体育館は複数のクラブが使用する場でもあり、この休憩場も各部員が共同で使用する場所だった。ある程度心を許した友人ならば良いのだが、見知らぬ他人と同じ空間にいるということが綾はどうにも苦手だった。別段恐怖を感じる、というわけではないのだが、無意識の内に体が緊張を持ってしまうのだ。

「お疲れ、相変わらず凄いな」

視線に気づいたのか、青年は一通り汗をぬぐった後、人好きのする笑みを浮かべながら綾へ話しかけてきた。

「嫌味ですか・・・神田部長」

神田は心底嫌そうな少女の言葉に苦笑を浮かべた。

「別にそういうわけで言ったんじゃないんだけどな・・・。実際、高倉は俺から見ても格好良いと思うし。人気があって俺なんかは嬉しいと思うけど」
「・・・・・じゃあ変わってあげますから。何時でも遠慮なく言ってください」

その言葉に、今度こそ神田は「すみませんでした、もう言いません」と謝罪の言葉を口にする。けれど何処か笑いを含ませたその言葉に、少女-高倉綾-は、「全く・・・」とため息交じりに呟いた。

本当にいい加減にしてもらいたいものだ、と思う。元々嫌われていたというわけではないが、それまで他者とは何処か一線を引いていた感のあった自分だ。 なのに、何故突然こんなに騒がれるはめに陥ってしまったのか。その原因を思い出して、綾は再びため息をついた。それは、彼女が今年の『全国高等学校弓道選抜大会』の個人競技の部門で優勝したことからそれは始まっていた。

大勢の出場者がいた中で、綾は一際目立った存在だった。弓の腕前は勿論だが、弓を引くときの動作、立ち振る舞い。纏った雰囲気など明らかに周囲とは一線を越えていた。本人などは会場の雰囲気に飲まれて緊張していただけだったといっていたが、共に大会へ出場し、傍らにいた神田にはその意味が良くわかっていた。

立ち振る舞いの美しさだけではない、綾の弓技には何処か清廉とした雰囲気があった。ピンと張り詰めた弓、限界まで引かれた弦を撃つときのキリリとした感触。それら全てが綾と一体になり、そして放たれた矢が真っ直ぐに的の中心へと飛んでいく。その動作の一連が神聖な儀式のように神田には感じられた。恐らくそれは他の者も同じだったのだろう。古来より弓は魔よけの力が有るとされており、今でも神事に使われているというがその意味が漸く解ったような気がした。

結局、個人競技で綾が優勝した以外は主だった成績は上げられなかったものの、それまでどちらかといえば地味な存在だった弓道部の地位は、それ以後一気に高まった。連日押し寄せてくる観客と、その歓声に辟易しながら(これが入部希望者であったなら歓迎できるのだが)、それでも綾が弓を引く間は静かにしていてくれるし、他の部員達もにぎやかになって良いと半ば面白がっていたりするからまだ我慢をしていたりする。

だが正直に言ってしまえば自分は見世物の人形ではないし、騒がれるのも、いや人付き合いもどちらかといえば苦手としていた。先日、綾と神田は弓道部の男子部長、女子部長を引き継いだばかりだったが、それも前部長達に押し切られたといった方が正しい。元々、弓道も父親の勧めで始めたものであったから、思いいれがそれほど有ったというわけでもないし、今更といわれるかもしれないが、正直彼らとどう接したら良いか迷っていた部分もあった。

他者と深い関係を築くことを好まない。
その原因は綾の”とある事情”に付随するところも大きいだろう。
けれど何か、もっと根本的なところで自分は他者から一線を引いている感があった。

それでも何とかやっていけているのは、神田の助けがあってこそだと思う。同じ責任を負うという立場になり、色々と話を交わす内に彼が、大らかで明るい性格の持ち主であること。けれど他者に対して、細やかな気遣いが出来る青年だと気づき、至らないところ、足りないところを補い合っている内に今では彼は大切な友人となっていた。彼がいなければ、自分はとても他の部員達を纏めることなど出来なかっただろう。

「と、そうだ忘れてた。雛咲がお前を呼んでたぞ」

突然出された幼馴染の名前に、椅子に腰掛けていた綾は驚いて立ち上がる。

「え、ちょっと早く言ってよ?」
「悪い・・・。何か真剣な顔してたけどさ、話長引きそうだったら今日はそのまま上がってくれても良いぞ。女子の方はやっとくから」
「本当、ありがとう! じゃあ、悪いけどお願いね」
「おう、しっかり聞いてきてやれよ」

神田に礼を言いながら、綾は練習場を後にした。行き先はこの練習場のある体育館の屋上。深紅は人の多い場所が得意ではない。人嫌いというわけではないが、綾と同じく彼女も特殊な事情を抱えており、それが人との接触を自然と少なくさせていた。 

 

***

 

屋上に通じる重い扉を開けると、僅かに紅く染まり始めた空が視界へ飛び込んできた。そして手すりにもたれながらにたたずむ少女の姿も。

「深紅、お待たせ!」

その背中が酷く小さく、儚いものに感じられ綾は技と大きな声を出した。
少女がゆっくりと振り返る。
もともと色が白い深紅だが、今日は何時もより青ざめた顔色をしているように感じられる。

「・・・・・・綾ちゃん」

その呼び方に、綾は彼女が何か不安を抱いているだろう事を悟った。綾と深紅はいわゆる幼馴染の関係にある。また、父親が『高倉』の家に養子に出た為に姓は違うが、深紅の母親の深雪と父親の治昭が姉弟であるという従姉妹同士という間柄でもある。幼い頃はお互いを「ちゃん」付けで呼び合っていたのだが、歳を重ねた今は人前以外でその呼び方をする事はなくなっていた。だが時折、深紅の精神が不安定な時や、何か大きな問題を抱えていたりしたときはつい子供の頃の呼び方が出てしまうのだ。

「深紅、何かあったの?」
「綾ちゃん・・・・・・・兄さんから何か連絡もらってない? おじさんとかおばさんとか・・・、何か聞いてない?」

兄さん、という単語に綾は眉根をよせた。
深紅が兄さんと呼ぶのはただ一人。

雛咲真冬

深紅のたった一人の兄であり、そしてたった一人の家族である人物だ。

「真冬さん、もしかしてまだ戻ってきてないの?」

綾の言葉に耐えるように、深紅はぎゅっと手を握り締めた。返事は無かったが、僅かに震えている深紅の様子には自分の問いが肯定されたのを知る。

「そんな・・・だってもう二週間になるのに?」

綾が真冬の恩氏であり知人でもあった高峰準星が取材の際に行方不明になったと聞いたのが4ヶ月前のこと。必死の捜索にも関わらず、準星はおろか同行した編集と秘書の行方は知れず、ただ時間だけが過ぎていた。誰の目にも諦めの感情が宿り始め、もう彼らは生きてはいないだろう、と捜索が打ち切られる中、真冬だけは諦めなかった。ジャーナリストとしての情報網をいかし、準星の残したメモ等を手がかりに探した結果、遂に、彼が向かったと思われる場所を発見した。

「確か・・・東北の何とかって家に行くって言ってたよね? ひょっとして、連絡とかそれ以来無かったりする?」

綾の問いに深紅はコクンと小さく頷いた。

「・・・・・・・・・・」

準星の行き先を突き止めた、と深紅の下へ真冬から連絡が来たのが丁度二週間前。不在勝ちになっていた真冬が漸くこれで家に帰ってくると、嬉しそうに言っていた深紅の姿が綾の脳裏に浮かぶ。

「・・・・・今まで兄さんが連絡くれなくなる事なんて無かったから。どんなに遅くなっても、二日に一度は電話をしてくれてたんだよ・・・・・・」

深紅の言葉に綾は頷いた。深紅にとってもそうだが、真冬にとっても彼女はかけがえの無い肉親だ。綾は真冬が深紅をどれだけ大切に思っているか知っていた。中々周囲と打ち解けずにいる深紅を何時も心配し、支えてきた彼が彼女を不安にさせるような真似をするはずがない。

「警察とかに言った? もしかしたら怪我とかして、動けないって可能性もあるかもしれないし・・・?」
「・・・・・・警察には言ったけど、一週間ぐらいじゃ失踪者として扱われないって。後、兄さんの友達の天倉さんとか、麻生さんに聞いてみたけど、やっぱり連絡行ってないって言われて」

「綾ちゃん・・・どうしよう・・・・・」、ととうとう深紅の瞳からポロポロと涙がこぼれてくる。

「深紅、深紅、落ち着いて。大丈夫だよ、真冬さんだったら大丈夫だって。ほら、高峰さんとかずっと行方不明だったわけだし、きっと病院とかに付き添って忙しいんだって」

何とか深紅を宥めようと綾は思いつく限りの事を言ってみるが、それでも深紅はフルフルと頭を横に振った。

「・・・・夢、見たの」

ポツリ、と深紅が呟いた。

「夢?」
「兄さんが・・・大きな屋敷に入っていく夢。周りは真っ暗で、あたし怖くって兄さんに行かないでって必死で呼んだの。でも兄さんどんどん中にはいっていっちゃって・・・・」
「深紅・・・・」
「あたしも兄さんの後を追ったわ。でも兄さん何処にもいなかった・・・・・・。屋敷の中は荒れ果てていて、人の気配が全くしないの。でも・・・・・・”ナニカ”がいるのは解った。ううん、”ナニカ”で溢れていた!! それが兄さんを・・・兄さんをどんどん飲み込んでいくの・・・・」
「深紅それは夢だって! 大丈夫、真冬さんなら大丈夫だから!!」

必死で深紅に「それは夢なのだから」と言いながら、綾自身も言いようの無い不安を感じ始めていた。

深紅の夢は”当たる”のだ。
一般的に正夢と呼ばれるもの。それは深紅自身の事であったり、他者の事であったりと様々だが、何時もピタリと本人しか知らないような事を言い当てていた。

”霊感”というのだろうか?
”アリエナイモノ”を見る力。

深紅はそれが幼い頃から強かった。真冬も深紅ほどではないが霊感がある。恐らく二人の母親である深雪からの血なのであろう。雛咲の家は霊力が強い者が生まれやすい。そしてそれはの父親である治昭に、そして綾にもいえる事だった。だが治昭は深雪ほど力が強くなく、今では殆ど見る事が出来ないらしいが。

「とにかく・・・、今日お父さんに話してみるから。それからまた色々考えよう、ね?」

綾の言葉に深紅は小さくコクンと頷く。不安を口にしたことで少し落ち着いたのか、涙は止まっていた。だがその小さな肩は未だフルフルと震え、痛々しい雰囲気を感じさせた。

とりあえず今日はもう部活どころではない、と手早く荷物をまとめ、二人して帰宅の途につく。とぼとぼと二人して並んで歩くが、足取りは重く中々 先に進まない。憂鬱になる気分の中、久しぶりに見たせいかもしれない、夕日がやけに紅く感じられた。


***
 

夢を見た。
山深い、木々の鬱蒼と茂る森の中。
その屋敷は有った。

『誰・・・・?』

誰かが屋敷の前に立っていた。

『綾・・・・』
『え?』

女性がゆっくりとの方を向く。何処か儚げな雰囲気を持った女性だった。彼女が今時珍しい和服を纏っているのもそう見えてしまう要因なのかもしれない。綾と女性の瞳が合った瞬間、ふわり、と切なげな、けれど嬉しそうな笑みを彼女は浮かべる。

『?』

その笑みの意味が解らなくて、綾は戸惑いの感情を抱く。彼女に見覚えなどない。誰かを間違えられているのだろうか、と綾が口を開きかけた時。

『綾・・・早く』

彼女の方が早く言葉を発した。

『早く、来て・・・・。でないと、間に合わなくなる・・・・・・・』
『?』
『早く・・・・深紅と一緒に』
『あの・・・貴女は? それに何処に来いって言うんですか?』

そう言うと、女性はゆっくりと後方に佇む屋敷を指差した。

『氷室の家・・・・』
『氷室?』

何処かで聞いた覚えがあるが、思い出せない。

『早く・・・・・引き裂かれてしまう前に・・・・・』
『あのっ!!』

がもっと良く聞こうと身を乗り出した。
だが唐突に視界がぐにゃり、と歪む。

『あのっ、ちょっと!!』
『・・・・・・引き裂かれてしまう・・・・・・・縄が絡みつく・・・・・・・早く・・・・・・・・』
『待って!!』

手を伸ばす。
だが間に合わない。
視界が真っ白に染まった!!

「!!」

はっと目が覚めた。薄ぼんやりと周囲の様が視界に入ってくる。見慣れた自分の部屋ではない。シンプルな、あまり人の手が加えられた様子の無い部屋。ベットから身を起こし、綾は周囲を見回した。

「ああ、そうか」、と漸くここが深紅の家だという事を思い出した。帰途についたものの、深紅を一人にしておくのが心苦しく、家にこないか、と誘ったのだ。深紅と真冬の母親である深雪が亡くなった後、まだ成人前であった二人を治昭が引き取 った。その後、真冬が成人し働き始めるまで、綾の家で暮らしていた。今でも時々、深紅は真冬が取材で家を空ける時など間に家に泊まりに来る。だが、真冬から連絡が入るかもしれない、と深紅は自宅に帰る事を望み。ならば、と綾が深紅の家に泊まることにしたのだった。

父親はまだ帰っていなかったが、母親に深紅の家に泊まる事、真冬がまだ帰っていないという事を伝えた。母の比奈は娘の言葉に驚いたものの、警察や病院へと連絡を入れてくれるという返事を返してくれた。父も母も、ずっと雛咲兄弟の事を気にかけていた。姉の子供だから、というわけではない。”同じ痛み”を知る者として、手助けをしてやりたいという気持ちがあるのだろう。

「ふうっ・・・」とはため息を吐いた。時計を見ると、まだ4時を回ったばかりだ。可笑しな夢をみてしまったから、何か疲れた気がする。できればもう少し眠りたい、と瞼を閉じようとした時だった。


「きゃあああああっ・・・・!!」

突然深紅の部屋から悲鳴が聞こえた。

「深紅っ!?」

綾は飛び起きると深紅の部屋へと向かった。

「あああ・・・兄さんっ、兄さん・・・・・!!」
「深紅、深紅どうしたの、落ち着いて!!」

飛び込むように深紅の部屋に入ると、深紅はベットの上で体を抱え震えていた。兄さん、兄さんと呟きながら時折何かを否定するかのように、首が左右に振られる。

「綾・・・ちゃん・・・・・」
「深紅、どうしたの?怖い夢を見た? 大丈夫、夢だよ、全部夢だって」
「綾ちゃん・・・・・・」

ポロポロと深紅の瞳から涙がこぼれる。

「兄さんが・・・・消えちゃうの・・・・・・・・」

深紅の腕でがすがり付くようにに伸びてくる。それを優しく受け止めながら、綾は「夢だよ」と何度も言い聞かせた。
だが深紅はフルフルと首を横に振って否定する。

「何処かの大きなお屋敷・・・・兄さんが其処に入っていくの・・・・・・」
「夢で見たっていう?」

コクリと深紅は頷いた。

屋敷の中なのだろう、真冬は長い廊下を歩いていたという。
其処は暗く、物が散乱し床板も所々朽ちかけていた。

「兄さん・・・・母さんのカメラを持ってた」

カメラ、という単語に綾は一瞬反応するが、そのまま深紅の言葉の続きを待った。

「フラッシュの光で、辺りが一瞬見えたの。何処を見ても荒れ果ててて、暗くて怖かった。”ナニカ”の気配もいっぱいして・・・。あたし兄さんに逃げてって何度も叫んだ、でも兄さん気づいてくれなかった・・・。怖くて怖くて・・・・その内あれが・・・・・・・」

再び深紅の体が震えだす。綾は落ち着かせようと、その細い体をぎゅっと抱きしめた。

「手が何本も壁から伸びてきたわ・・・・兄さんに向かって・・・・・・。兄さん逃げたけど、逃げたけど・・・・・」
「深紅、大丈夫。大丈夫だから、ね、落ち着いて」

再び泣きだした深紅を何とか落ち着かせようと、綾は必死で深紅を宥める。
だが、その時気づいてしまった。

「・・・・深紅、その手?」
「・・・・え?」

気づいてないのか。
綾は自分の腕を掴んでいた深紅の手を取り、彼女に向けた。

「これ・・・っ!!」
「痛く・・・ないの?」

フルフルと深紅の頭が振られる。深紅の右手には、紅く縄のようなもので絞められた痕がついていた・・・・。

わけが解らないまま、とにかく気持ちを落ち着かせようと綾は台所へと向かった。冷蔵庫から牛乳を取り出し、人肌ぐらいまで温める。牛乳の香りにほっとしながら、それをカップに注ぐと、急いで深紅の部屋へと戻る。

「深紅・・・?」

だが室内に深紅の姿は無い。何処へ行ったのか、と怪訝に思っていたところへ隣の真冬の部屋から何か物音が聞こえてきた。

「深紅、ここに居るの?」

真冬の部屋へ行くと、深紅が机の上で何やらゴソゴソ行っていた。メモ用紙だろう、紙切れに視線を走らせながら同時に深紅の手がせわしなく動く。

「あった・・・・」
「深紅?」

深紅が一枚の紙を取り出した。

「これっ、兄さんの向かった場所!」

深紅がに見せた紙片。
どくんっ、と綾の鼓動が跳ねる。
そこには『氷室邸』、という文字書かれていた。

『氷室の家・・・・』

夢の中の女性の言葉が浮かぶ。

「・・・・ここに、真冬さんが?」
「間違いないわ! 綾ちゃん、あたし行ってくる!」
「え?」

深紅の言葉には戸惑いの声を上げた。

「行くって・・・ここに?」
「兄さんを探さないと・・・。早くしないと手遅れになる!!」

綾の瞳と深紅の瞳が絡み合う。先ほどとの怯えた様子が嘘のようだ。深紅の瞳には、強い光と明確な決意の色が浮かんでいる。儚げに見えるが、深紅もここぞという時は強い。困難に出会っても、立ち向かえる強さがある。そして一度言い出したら決して曲げない頑固なところがあることも綾は知っていた。

「詳しい場所とか・・・わかるの?」
「多分、兄さんのメモをきちんと整理すれば・・・」

深紅の言葉には頷いた。

「解った。深紅はそれをやってて。あたしはそれまで必要なものを整えるから」

綾の言葉に深紅は大きく目を見開いた。

「・・・・・一緒に行ってくれるの?」
「そんなわけ解らないところに、深紅一人で行かせるわけにはいかないでしょう。まずは、とりあえずうちの両親にきちんと行き先を報告しないとね」

自分達まで行方不明になったら、探してもらえなくなるし、と言って笑うに深紅も漸く笑みを浮かべた。


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目指せキャラクター救済! 公式で救いがない分頑張って書くつもりです!あ、ちなみに管理人は立花双子が好きです。

3-2

「全く、あの2人は相変わらずじゃな」

アマネのすぐ後ろから男性の声が聞こえてきた。
その直ぐ後に、「全くよく飽きないよね」と先に聞こえてきた声よりも年若い少年の声が耳に届く。

「だな」

そしてまた別の声。
声のした方へ振り向いたアマネは、そこに3人の男達が立っているのを見た。彼らは皆手や肩に鍬や籠等の農工具を担ぎ、ヤマユラ特有の動きやすい服装をしていた。

「あ、皆さんお疲れ様です」

傍らでエルルゥの弾んだ声が聞こえてくる。

「アマネさん、こちらウーさんとヤーさんとターさんです」

「畑作りを手伝ってくれているんです」、と続けられた言葉に彼らはにっこりと笑みを浮かべながら「そうそう」と頷いた。

「手伝い、といってもハクオロさんから教わった事をやってるだけなんですけれどね」

そう答えたのは3人の中でも最年少のターだ。

「アンチャン、何でも知ってる・・・。モロロ豊作、アンチャンのおかげ」

何処かたどたどしい口調ながらも、嬉しげに言葉をつむぐのはウー。

「まぁ、年寄りを働かせすぎるのはどうかとも思うがの」

そう豪快に笑いながら言ったのは、3人の中でも最年長のヤー。
それぞれ本当の名前があり、今エルルゥが呼んだ名は愛称なのだそうだが、3人ともそちらで呼んでもらった方が嬉しいと言うので、アマネもそれに従う事にする。

「皆さん、お疲れ様です。お腹すいたでしょう。お昼持ってきましたから皆で食べましょう」

そう言ってエルルゥが手に持った包みを差し出すと、彼らは歓声上げながらそれを受け取った。

「ほら、テオロさんもソポク姉さんも。何時までもやってないで、ソポク姉さんそっちの包みも出して頂戴」

エルルゥが未だに言い合っている2人にそう伝えれば、ソポクは「そうだったね、と少しだけ恥ずかしそうに笑みを浮かべながら手に持った包みを解いていく。
中からは、ゆでたモロロが幾つも出てくる。ヤマユラの里では最も一般的に食べられているものだ。

モロロは生命力が強く、多少荒れた土地であっても育ち、かなりの収穫もできる。
だがその皮には毒があり、また味も淡白でそう目立った特色もない事から都やもっと開けた土地では食用としてよりも、鑑賞用として用いられる事が多かった。
けれど深い山に囲まれたこの村では、モロロの実だけでなくその葉もお浸しや炒め物にして食べる。
それほど豊かだ、とは思っていなかったが考えていたよりも厳しい状況なのかもしれない、とアマネは
手にしたモロロを見ながら思った。

あとがき
モロロってジャガイモですよね…。多分。
ヤマユラに居た頃はモロロを食べるシーンがたくさん有ったのに対して、トゥスクルになってからは余りそれが無かった気がします。多分、モロロって余り上品な食べ物として認識されていないんじゃないかなぁ…と思ったらこんな風になってました。
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