FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


[ ユリウス→←アリス ]


森の中に1人、私はいた。
ざわざわと風が木々を揺らす。
空を覆う枝葉の間から光が薄らと差し込んではくるものの、周囲はけっして明るいとは言えない。


・・・・・自分は何故こんな所に居るのだろう?


ざわざわと音を立てて揺れる木々の下にアリスは立っていた。
右を見ても左を見ても、あるのは木々の姿だけで建物らしい姿はなく。
かと言って自分が通ってきたかもしれない道の姿も見当たらなかった。

何故こんな所に居るのか、しかもどうやってここに来たのかも解らない。
戻ろうと思うけれど道が見当たらないので、それも叶わない。

けれどそこでふと気付く。

戻る―――――――?

私は、何処へ戻ろうとしていたんだっけ?

真っ先に頭に浮かんだのは家の事だった。
大好きな姉のいる、懐かしい我が家。
良い思い出があるとも、決して居心地が良いとはいえなかった場所なのに。けれど迷子になった時、真っ先に頭に浮かぶのはやはり住み慣れた我が家だった。
けれど直ぐに、それは違うと考え直す。
家には帰りたい。でも帰れない?

帰る事が怖い?

何故こんな事を感じるのだろう。
ざわざわと木々が風で大きく揺れた。
森の中に居るのだから、そんな音が聞こえて当たり前な筈なのに何故だかビクリと体がすくんでしまう。

怖い、怖い、怖い――――――――。
何故こんなに怖く感じるのか?
ここに居るのが怖いのか? それとも家に帰ると思った事が怖いのか?
もしかしたらその両方なのかもしれないけれど、でも今のアリスにはそんな事を判別できる余裕は無く。
後ろも前も、右も左の道も無いただ木々の群れが有るだけの森の中で、ぽつんと1人で佇んでいた。


***


「・・・・・アリス?」

不意に頬に冷たいものが触れた。
頬を滑る固くて冷たい感触は、一般的には決して気持ちが良いとは言えないものだろうけれど、今の自分にとっては酷く安心感を齎してくれるものだった。

「・・・・・・ユリウス?」

視線を上げると直ぐ隣で自分を心配げに見つめる青年の姿あった。
冷たくて固いそれは彼の指だと気付いた瞬間、アリスはもう一度安堵の息を吐き出す。

「・・・嫌な夢でも見たのか?」

嫌な夢?
そうなのだろうか、内容など良く覚えていない。
ただ楽しい内容ではなかったと言う事だけ漠然と感じた。

「そう、なのかな・・・。よく覚えていないわ・・・・・」

そう言うと、ユリウスは呆れたようなため息を一つ吐き出す。

「よく解らない夢で泣いたのか、お前は」

呆れた声を出しながらユリウスは指をするり、と滑らせるるように彼女の頬から離した。
冷たい感触と水の濡れた感触が頬に残り、その時初めてアリスは自分が泣いていた事を悟った。

「・・・・うそ、私泣いてたの?」
「しかもかなり魘されていたな。お陰で私は眠るどころじゃなかった」

その言葉に驚くものの、アリスとしても自分が何故泣いているのかなど全く解らなかった。
なのに理性とは逆に彼女の瞳からは次々に涙が溢れてくる。止めようと指で何度も拭ったけれど、それでも後から後からあふれ出す涙は一行に止まろうとしなかった。

「・・・もうよせ、目が腫れてしまうぞ」

再びユリウスが呆れたように言う。
けれどその中にはアリスに対する気遣いの感情が混じっていた。

「だって、止まらないんだもの・・・・。可笑しいわよ、こんなの・・・」
「止まらないものは仕方ないだろう。・・・・・大体無理に止めようとすることは無いんじゃないか。涙が出ると言う事は、泣きたいことがあるということだろう。一度出し切ってしまった方がすっきりもするんじゃないか?」
「そんな曖昧な・・・・」
「訳の解らない泣き方をしているんだ、曖昧くらいで丁度良いだろう」

そうしてまた彼の指がアリスの頬を撫でる。
けれど常なら乾いている指先が今は僅かに湿っていて。それが自分の涙のせいだとアリスが気付くのは容易かった。

「・・・・本当に何で泣いているのか解らないの・・・」
「そうか」
「でも、泣きたいわけじゃないのよ。でも、何だか不安で怖くて・・・。涙が止まらないの・・・」
「だったら泣けば良い。お前の気が済むまでな」
「だから泣きたいわけじゃ・・・・」

それ以上の言葉は放つ事が出来なかった。
彼の指がアリスの頬から離れた次の瞬間、ユリウスの腕が彼女の頭をすっぽりと抱え込んだから。

「ユ、ユリウスっ!!」
「こうしていれば泣き顔は見れないだろう」
「!!」
「泣きたければ泣け、泣き顔を見られるのが嫌だというのなら見えないようにしていてやるから」
「・・・・・・・・・・・何か、その言い方私が泣きたがっているように聞こえてむかつくんだけど」
「実際泣いている奴が何を言う? ほら、大人しくしていろ。まだ夜は続くんだ、それに私は疲れていて眠い」

気遣ってくれているのに素直ではないユリウスに、アリスは泣きながらもくすり、と小さく笑みを漏らした。

「・・・・そうね、私も眠いわ。何故か泣いてるけど」
「そうだ、私も眠い。一緒のベットに寝ているのだから、腕が当ることもあるだろう。そう考えでもして諦めて寝ることだな」
「・・・・・・・そうね、そうよね。そういう事もあるもんね」

ふわり、とアリスの頭を抱くユリウスの腕にアリスが自分の腕を重ね合わせる。
何故なのかは知らないが、泣いているのは事実なのだから、今はそれを受け入れよう。
自分の意思ではないのだ、少しぐらい泣き顔を見られた所でどうってことはない・・・・筈だ。

未だに涙の溢れる瞳を瞑る。
至近距離にあるユリウスの胸から聞こえてくるのは、自分のものとは違う音。
チッチッチッ、という時計が針を進める音だ。

不思議だ。
初めは怖いと思っていた時計が今は自分をこんなにも安らかな気持ちにしてくれるなんて。
アリスの世界では時計が体の中に入っているなんて人は居ない。自分の中にあるのは心臓で、奏でる音も異なっている。
昔母親に抱かれた時に聞いた音、姉に抱きしめられて聞いた音とそのどちらも自分に安心感を抱かせてくれたけれど。

「・・・・・・・・不思議ね。ユリウスの音はそれ以上に安心するわ」
「?」

顔を覆われているので彼の表情はわからない。けれどきっと疑問を浮かべた表情をしているのだろう。
解りにくいようで解りやすい、それがユリウス・モンレーという男なのだ。
そして、不器用だけども優しい。

「・・・・・・・・ありがとう、ユリウス」

小さく呟いた声は果たして彼に聞こえたか、聞こえなかったのか。
ぴくりとも動かない腕と返事も戻ってこないことに恐らく聞こえなかったのだろう、とアリスはそのまま暗くなっていく意識に身を任せる。
きっと悪夢はもう見ないだろうと確信しながら。



「・・・・・・・居るのだろう、ナイトメア」

腕の中の少女が安らかな寝息を立て始めた頃、ユリウスは自分達以外には誰も居ない部屋の中に呼びかけた。
ゆらり、と部屋の隅から黒い影が立ち上りそれは段々と人の形となる。

「・・・・・・・・・何時出て行こうかと困ってしまったよ。それにしても時計屋にそんな優しい言葉をかけさせるなんて、やっぱり彼女は偉大だね」
「くだらない事を。大体お前のせいだろう」

アリスを起こさないように僅かな動きで身を起こす。
光源が落とされた部屋の中、視線の先に立っているのは銀色の髪を持ち右目を眼帯で隠した青年だった。

「確かにね。でももう術はかけ直しておいた。目が覚めたら彼女はすっかり今の事は忘れてるよ」
「かけるのだったらしっかりやったらどうだ。大体お前の術は何処か何時も抜けているんだ、フォローするこちらの身にもなれ」
「仕方ないだろう。私は忘れさせているだけで、無くしているわけではない。それにこのお嬢さんは元々こういった類の術はかかりにくいタイプでね、ちょっとしたきっかけで綻びが出てしまう」
「きっかけ・・・・・? 夢は貴様の領域だろうが、一体何が・・・・・・」

其処まで言いかけて、ユリウスははた、と気が付いた。
目の前の人物の厄介な性格を。

「お前・・・、まさかまた・・・・」

そのユリウスの言葉を肯定するようにナイトメアはポリポリと頭をかく。
余りの事にユリウスはもう怒りさえ通り越して呆れが湧き上がってきた。

「・・・・・お前、だからあれほど病院に行けと・・・」
「いやぁ、私もまさかこんなに具合が悪くなるとは思っていなくてね。でも大丈夫、もう何時もの状態には戻ったから」
「何時もの状態って、まだ悪いままじゃないか。いい加減に注射が怖いなんて子供みたいな事を言っていないで、注射でも点滴でもしてもらってさっさとその厄介な身体を治せ!」
「嫌だね、私は注射も点滴も病院も嫌いだ! 注射をしない医者がいるなら行っても良い」
「・・・・・・・んな医者がいるかっ! 治療に不可欠な事ならしてもらうのが当然だろう。大体そのせいでアリスの記憶が戻っていたらどうするつもりだったんだ!」
「どうしようもないよ。彼女は全てを思い出して、そして元の世界へ戻る。それだけだ」
「っ!!」

あっさりと言い切ったナイトメアにユリウスは言葉を無くす。

「戻って、この世界の事を忘れて彼女の世界で暮らしていくだろうね」
「随分あっさりと言うんだな・・・。お前は彼女の事を気に入ってたのではないのか?」
「幾ら記憶を封じたって、戻る時には戻ってしまう。この世界のものなんてそんなあやふやなものばかりだからね。まぁ今回は君がきちんとフォローしてくれたみたいだけど。出て行ってもらいたかったんじゃないのかい?」

意地悪な質問だった。
今のユリウスの気持ちを知っていての言葉。
たちの悪い問いかけに、ユリウスの表情が歪む。

「今回だけだ・・・。私には人の記憶をいじるなんて性質の悪い趣味は無い」
「だろうね。それにしても、随分あっさりとかかったものだね。何時もはもう少し抵抗されるんだけど・・・・。だから不意打ちをかけて無防備になった所を何時も狙っているんだ」
「不意打ちって・・・お前一体何時も何をしているんだ!」
「ん~~、そりゃあ抱きついたりとか?」
「ナイトメアっ!!」
「おっと大声出すと彼女がおきてしまうよ。仕方ないだろう、言ったことだけど彼女は術がかかりにくい性質をしているんだ。意志が強くて責任感が強い、ちょっとやそっとの事では弱音を吐かない。こういった人間は厄介なんだよ。自分の中に何でも押し込めて昇華させる事をしない。だから溜まった感情は常に噴出す瞬間を待っている」

ナイトメアの言葉にユリウスが表情を更に歪ませたが彼の言葉は止まらなかった。

「私がしているのは只の記憶の封印だ。そういった感情まで消す事は出来ない。記憶という鍵が無い以上扉が閉まっているだけであって、それを叩く者までいなくなったわけではないんだよ、ユリウス」
「ご大層な言い方はよせ・・・。大体彼女がそれを望むのなら・・・」
「でも、彼女はここに居た方が幸せになれる。元の世界より、このハートの国に居た方がずっとね。だから私もこの弱い身体に鞭打って頑張っているんだよ」
「・・・・・・・頑張るんだったら徹底的にそれこそ死ぬほど頑張れ。安心しろ、時計が壊れても私がちゃんと修理してやる」
「おや酷い事を・・・・。まぁ今回は確かに迷惑をかけたからね、耳に痛い言葉だが受け入れておこう。では、私はそろそろいくよ・・・。これでも役目を持つ身だからね」

そういうとナイトメアは来た時と同様、ぼやけたもやの様な姿になり闇の中へと消えていった。
後に残ったのは部屋に満ちる時計の音と、規則正しく聞こえるアリスの寝息だけだった。

「全く・・・何時も何時も勝手な事を・・・」

だがこの世界の住人で身勝手でない者など居るだろうか。
勿論自分も入れて、だが。
ほうっ、と一つため息をつくと僅かに動いた腕が直ぐ隣で眠るアリスに触れた。
さらさらとした感触は彼女の髪だろうか。僅かに乱れたそれを優しい仕草でそっと掃ってやると、安らかな表情で眠るアリスの顔が薄暗い光量の中浮かび上がる。

悪夢-こう表現しても良いだろう-は見ていない様子にユリウスは知らず安堵の息をはいた。
隣で眠るこの少女がこれほど自分の身の内を占める存在になるとは、誰が想像しただろう。
いや、そもそも自分が他人を気遣うようになるなど思ってもいなかった。

そっと身体を彼女の隣に横たえる。
安らかな寝顔、けれどそこに残る涙の痕をユリウスの指が触れた。
彼女が抱えるものが何なのか、それは自分には解らない。けれど自分以上に他人に無関心無反応な白兎が気遣い、ナイトメアが力を使ってまで封じているそれが決して軽いものではないと言う事だけは容易く想像がついた。

そして、彼女がそれがどんなに重いものであっても逃げようとしないだろうと言う事も容易く想像がつく。
周囲がどんなに逃げて欲しいと望んでも、彼女は自分の思いを貫いてしまう。そういう頑固な性格の持ち主なのだ。
厄介だな、と感じるもののそれもまた彼女の一部なのだから仕方がないとも感じる。

だがその仕方なさのせいで彼女が元の世界に戻る事になったとき、果たして自分は今と同じように仕方ないと考えられるのだろうか?
既に隣に居る事が当たり前のようになってしまった少女。
自分に感情を教え、暖かさと安らかさを与えてくれる少女を、彼女が決めた事だからと自分は笑って送る事が出来るだろうか。

少し前まで出て行ってもらいたいと思っていたのに、随分と勝手な事だ。
けれどその勝手な事を願ってしまうほど変わってしまった、彼女によって変えられた自分が居るのも事実であって。

「全く・・・・お前のせいだからな。私がこんな事を考えるなんて・・・」

そんな理不尽な台詞を呟いて、ユリウスは目を閉じた。
夜の時間はまだ続く。

瞼が視界を遮ると、見えるのはただの暗い闇のみになる。
右も左も、上も下も無い暗い闇のみが彼の回りに広がった。
それでも彼の隣には暖かいぬくもりがあり、規則正しく聞こえてくる寝息が彼女が其処に居ると言う事を教えてくれる。

1人ではないと気付くのがこんなに自分を満たしてくれるものだと、ずっと知らなかった。
何時かは離す、離さなければならないのかもしれないぬくもりだけれど。
今は自分の傍にあるこれを存分に堪能しようと、ユリウスは隣に眠るぬくもりにそっと腕を回した。


【あとがき】 
微妙にユリウスが優しい?
まぁ泣いている子には勝てないって事で。
スポンサーサイト

どうしようもない片思いで10のお題

どうしようもない片思いで10のお題
[ ユリウス×アリス←他キャラ ] 
8/10 Complite!

1:その他大勢の中のあたし
ペーター・ホワイト

「アリスっ、待っていましたよっ!!」

今日も自分は同じ言葉を繰り返す。
気まぐれに訪れてくれる彼女に向かって。

辛い思いにさいなまれるくらいなら、違う世界で幸せになってもらえれば良いと自分の世界に引き込んだ。
辛い記憶を全て忘れさせて。この世界で、自分と同じ世界で幸せになってもらえば良いと。
そう願って。

ああ、でも何故だろう?
彼女を真っ先に見つけたのは自分なのに?
誰よりも彼女を思っているのは自分なのに?

誰よりも彼女に思ってもらえるのは自分ではない。

「ずっと待っていたんですよ。早くあんな薄暗い陰気な所から出てしまってくださいよ! 貴女の部屋なら何時だって準備が出来ているんですから」
「ずっと、貴女がここにいてくれれば良いのに・・・・」

自分の言葉は彼女に届かない。
なのに自分は今日も彼女に同じ言葉を放つ。

決して聞き入れてはもらえない”愛の言葉”を。

ペーターの愛って解りやすくて、解りにくい。


2:祈りにも似た羨望
ボリス・エレイ

「ねぇ、アリスってさ時計屋の何処が好きなの?」

唐突な質問にアリスは「はぁ?」、と目を見開いた。
いや、彼が唐突なのは何時ものことだ。何時も唐突に現れて、自分の好きだというナゾナゾの答えを求めてくる。
気遣ってくれる事もあるが、方って置かれることも多い。きまぐれな猫そのものの彼が唐突に問いかけてきたのは、何時もとは違った謎かけの言葉。

「何よ、突然?」
「いや、何か気になっちゃってさ。だってあの時計屋さんだぜ」

酷い言われようだ。アリスはムッとしながらも努めて平静な声を出して答えた。

「ええ、私の恋人はあの時計屋さんね」
「それが信じられないんだって。何だってあんたがあいつと・・・」
「それ以上言ったら怒るわよ、ボリス」

と言っても自分の好きな人をけなされて良い気分でいられるはずもなく。ワントーン下がった声音にボリスは慌ててアリスに謝罪の言葉を述べた。

「・・・・・そうね、強いて言うなら『自分の事を大切にしてくるところかしら』」
「はぁ、何だよそれ?」

何度か謝罪の言葉を述べた後、漸く「もう良いわ」と許しの言葉を貰った。慌てた後でも最初の疑問は忘れていなかったのか、再び同じ質問を問いかけてくる彼にアリスは少し考えるとそう答えた。

「だってこの世界の人って、他人のもそうだけど自分の命にも無頓着すぎるのよね。ユリウスくらいなのよ、自分の命を惜しんでいるのって。あの人が引きこもっているのって性格もあるでしょうけれど、無駄に襲われるのが嫌だからでしょ」
「・・・・・・それがあんたがあいつを好きな理由?」
「そうよ、可笑しいかしら?」
「訳解んねえ・・・・」

ナゾナゾよりも更に難解な答えにボリスは頭を抱えた。

「そうかしら、単純明快だと思うけど」
「はぁ、何処がだよ。大体俺も時計屋も代えが効く存在なんだぞ。そんなもの惜しんでどうするんだっての?」
「・・・・・・・つくづくアンタを好きにならなくて良かったって思うわよ・・・」

ため息交じりに呟かれた声に、ボリスの泣きそうな声が覆いかぶさる。
そんなわけの解らない理由で自分は彼女の特別になれなかったのか、と。
きっとその訳が解るのだろう彼に、羨望にも似た思いを抱きながら。

「・・・・・訳解らんねえよ、あんたもあいつも・・・」

再びボリスは呟いた。

ボリス好きになってたら大変だったろうなあ・・・、ってあのイベント見ながら思った。


3:偶然は偶然でしかない
メリー・ゴーランド

ユリウス・モンレーは真面目な男だ。
真面目すぎて面白みが無いほど。

本来遊ぶ場であるはずの遊園地に赴きながら、ゴーランドが幾ら誘っても「仕事があるから」とさっさと帰ってしまう。
あの手この手で誘ってみたのに、彼は一度だって頷いてくれたことは無かった。

「絶叫系が苦手なら苦手だって言ってくれれば良かったのに」
「・・・・・苦手じゃない、別に平気だ」
「そんな真っ青な顔して何言ってんのよ。大丈夫、お水とか貰ってこようか?」
「平気だといって・・・・・・うっぷ・・・・・・」
「あ~、ほら無理しないで。冷たいもの貰ってくるからちょっと待っててよね! 大丈夫だからね!」

ぱたぱたと慌てた様子で水色のドレスを着た少女が近くの店へと走っていく。
その様子を物陰から眺めながら、ゴーランドはベンチに力なく座り込む男-ユリウス-へ視線をむけた。

ぐったりとした様子の彼からは何時もの皮肉気な雰囲気は一切感じられない。
絶叫系が、というより乗り物自体が苦手なのかもしれない。
これでは自分がいくら誘っても首を縦に振らなかったはずだ、とゴーランドは妙に悟ったような思いを抱く。

「ユリウス、お水貰ってきたわよ! ほら、大丈夫?」

ぱたぱたと再び音を立ててアリスが戻ってきた。手には水の入ったコップを抱えて。

「すまない・・・・」
「別に良いわよ。無理に誘っちゃったのは私だし。でも苦手なら苦手って今度からは言って欲しいわ。嫌いなものに無理に乗ってもらっても楽しめないでしょう」
「別に嫌いなわけでは・・・・・」
「ユリウスじゃなくて、私が楽しめないの。こういう所では皆一緒に楽しむものなんだから」
「・・・・・・それは隣でわいわい笑っていた奴の言う台詞じゃないと思うが」
「うっ、そ、それはまあ忘れてよ・・・。とにかく、無理はしなくて良いから。ユリウスだってほら、誰かに無理してまで付き合ってもらいたいなんて思わないでしょ!」

無理をさせているな、とは途中で気付いていたアリスだったが久しぶりの絶叫系マシンについ気持ちが高ぶってしまった。ばつが悪そうな表情を浮かべるアリスに苦笑を浮かべたユリウスであったが、やがて何時もの笑みを浮かべると「確かにそうだな・・・」と頷いてくれた。

「そうよ。別に絶叫系じゃなくても乗るものは沢山あるんだもの、今度はもっと大人しい物にしましょう」
「となると・・・あれか?」

と言ってユリウスが指し示したのはクルクルと回り続ける回転木馬だった。途端、今度はアリスの動きがぴたっとと止まってしまう。

「へ・・・・・あれはちょっと・・・。別の意味できついかも・・・」
「だろうな・・・。まぁ良い、私にも今日は時間がある。お前が満足するまで付き合ってやるさ」

途端、ぱっと顔を輝かせたアリスにユリウスも微笑み返した。気分も大分落ち着いてきたので、水の入っていた紙コップを傍のゴミ箱に投げ入れると傍らに立つアリスへ「行くか?」と手を差し伸べた。アリスも当然の事の様に微笑みながら彼の手に自分の手を乗せる。
その自然な仕草にゴーランドは彼らが昨日今日、こういったやり取りを始めたのではないという事を悟った。

2人の姿が完全に奥へ消えていったのを確認し、ゴーランドはそっと物陰から身を出した。
この世界の唯一の時計を扱える彼は、どうやら余所者の時計の扱いにも慣れていたらしい。
それとも、やはり彼女が特別なのだろうか・・・?

そっと自分の右胸に触れてみる。
いつもの様にチッチッチッと時計の鳴る音が聞こえる、ただそれだけだ。
ちくり、と痛みを感じた気がするのは気のせいだったのだろう。
これは時計であって、心臓などではないのだから。

ごめん、訳解らない。
でもゴーランドものこともやっぱり訳解らない。良い人すぎるんだよね、彼。



4:僅かでも確かな笑顔の違い
エース

「・・・・消えてしまいそうだ」

時計塔のやっかいになるようになって、どれくらい経つのだろうか?
そんな事今まで気にした事なんて無かったけれど。
決して短いとは言えない時間帯の中で、彼のそんな言葉を聞いたのは始めての事で。

塔の屋上へと通じる扉へと伸びかけていた手をエースは思わず引っ込めた。

「・・・・消えないわよ、何を言っているの?」

けれど彼女もまた彼と同じように、消え入りそうな声で返す。
何処か悲壮感の感じるその声音に立ち去ろうとしていたエースの足がピタリと止まる。

「そうだな、お前は確かにここに居る・・・・・。今はな」
「・・・・・・・消えて欲しいのかしら?」
「まさかっ!! だが・・・・」
「貴方が望まない限り、私はここから出て行かないわよ。絶対に、勝手に消えたりしない・・・」

そっとユリウスの手がアリスの頬に伸びる。
確かに彼女がここに居ると、確かめるように一瞬と惑うように手がぴくりと動き、そして恐る恐るといった様子で彼女の頬に触れた。アリスがそんな彼の手の上に自分の手を重ね合わせる。自分はここよ、と言うかのように。

「ほら・・・・、居るでしょう」
「そうだな・・・・。何故だろう、当たり前な事なのに何故か酷く安心する」
「私も・・・・こうやって貴方に触れられていると、凄く安心する」

ふわり、とアリスが微笑んだ。
嬉しげに、そして何処か悲しげに。
彼女の言葉に、その笑顔に嘘は無い。本心からの物のはずなのに---何故か胸が締め付けられた。

ユリウスの腕が彼女の身体に伸ばされる。そのまま彼はアリスの華奢な身体を抱きしめた。アリスも抵抗する様子もなく、彼のしたいままにさせている。

「消えないでくれ・・・・」
「・・・・消えないって言ってるでしょう。貴方こそ・・・・・」

今度はアリスの手がユリウスの背にそっと伸ばされた。白い腕が彼の紺色のジャケットの布地をぎゅっと握り締める。
互いが居る事を確かめたくて。

カツン、と音を立ててエースはその場から離れた。
彼らに気付かれたかもしれない、という心配は無かった。どうせあの2人は互いの事で夢中だろう。自分が居たとしても、直ぐにそんな事忘れてしまうはずだ。
時計塔の長い階段を下りながら、エースはいらだつ心を抑える事が出来なかった。ユリウスにだろうか、それともアリスに?
両方かもしれない。彼女にあんな風に触れて、自分には決して見せてはもらえない笑顔を浮かべてもらえるユリウスにと、あんな風に彼には素直に弱音を吐いて、彼だけの笑顔を浮かべるアリスにも。

ぎゅっ、と剣の柄をにぎしりめる。
今にも剣を抜いてしまおうとする思いを押さえ込むかのように。

「・・・・・あ~、でも俺その場合どっちを切れば良いんだろ?」

ぽつり、と呟かれた言葉は時計塔の長い階段の中に消えていった。

時計塔イベントで、ユリウスが「消えそうだ」とかいう台詞を言っていたけれど、アリスもまた彼が消えてしまうのを恐れていたんじゃないかなって。
だってずっと夢だと思ってたんだもんね。



5:私には貴方しかいないのに
ブラッド・デュプレ

「友人として忠告するが・・・。時計屋には近づかない方が良い」

ブラッドの言葉にアリスはむっとしたような表情を浮かべた。
だがブラッドは構わず言葉を続ける。

「これは友人としての忠告だよ、お嬢さん。あいつは君が近づいて良い人間じゃない」

イラついたような声。普段からやる気が無く、感情の起伏を滅多に出さない彼にしてみればそんな態度は非情に珍しい事だったろう。
言われたアリスも、常の彼女であればそんな彼の感情の起伏に気付けたかもしれない。けれど彼女もまたイラついていた。突然現れて、自分の大切な人を貶める台詞を言われたのだ。怒らないほうが可笑しいだろう。

「・・・・・そんな事、貴方に言われる筋合いはないわ!」

彼の一世一代の忠告は、冷たいその一言によって跳ねつけられた。

 

 

「・・・・・憎まれるのもまたあの子の心を奪う、一つの手段ではあるな」

いつもの様に突然に現れた姉は、来るなり早々物騒な言葉を呟いた。

「何の話だ?」
「解らぬはずが無いだろう、幾らお前が阿呆でもな。時計塔の前で随分と派手にやりあったようじゃの」

敵対する勢力同士、出会えば打ち合わなければならないのがこの世界のルールだ。それがたとえ勝てない相手であったとしても。

「言っておくが、仕掛けてきたのは向うからだが」
「解っておる、お前がわざわざ自分から面倒事を始めるとは考えられぬからの。だが、今回はその面倒ごとに首を突っ込んでいるようじゃが」

身内の近さからか、それとも女性の勘というやつか。彼女は時々全てを見透かしたような台詞を口にする。
今回もまた、それが何をさしているのか理解したブラッドは苦々しく表情をゆがめた。

「姉貴には関係ないことだと思うが」
「本当にそうではないのなら、嬉しいのじゃがな。残念ながら、お前とわらわは誰も知らぬこととはいえ身内同士。お前のした事はわらわにとっても関係が出てくる。特に、アリスの事に関しては・・・」

ぴくり、とブラッドの瞳がつりあがる。
たった一人の少女の名前、それが自分の時計をこんなにいらだたせるなんて、どうして想像できただろうか。

「愚かな事を考えているのであれば、止めておけ。幾ら近づくなと言っても、あの子は聞きはしないだろう。だって既にアリスの心は奪われてしまっているのだからね、お前以外の者に」
「・・・・・・・・・・・」
「愛情は手に入れられなくとも、心は欲しいといったような目じゃな。じゃが、時計屋を殺してもあの子はお前を憎んでなどくれぬじゃろう。それよりお前を苦しめるもっと効果的な方法を知っているのだから」

ビバルディの瞳があざ笑うように吊り上げられる。それは彼女が面白いおもちゃや退屈しのぎを見つけた時に好んで浮かべる表情だった。

「アリスはお前を憎んでくれなどしない。それどころか、お前の事を自分の心の中から全て追い出すだろう。自分の心にお前が宿る事、それこそがお前の望みだと知るが故にな」
「っ!!」

同姓であるが故に姉は弟より彼女の心の向かう先が見えるのだろう。
反論したくとも反論できない、それでも自分を睨みつけることをやめない弟に姉は再びにんまりと唇を上に吊り上げて笑った。

この姉弟好きかも。
アリスを取り合ってじたばたしていると良い。



6:見つめるのは背中と横顔
ビバルディ

「ほんに、酔狂な女子じゃのう、お前は」

ハートの国の女王ビバルディ。
この世界に存在するどの色よりも赤い色を好む彼女の唇を染めるのは、やはり緋色。声音は優しいけれど、彼女の唇が何か面白いおもちゃを見つけたときの子供の様に
上へ吊り上げられている事にアリスは気付いていた。

「・・・・・行き成り何よ、ビバルディ」

彼女に限らず、この世界の住民は皆自分独自のルールで動いている。やりたい事をやりたい時に行い、言いたい事をそのまま口にする。
それが相手に良い効果を齎さないとしても、決してオブラートにくるんだりはしない。

「そう思ったから口にしただけじゃ。聞き流してくれても良いよ」
「・・・・・・・・・」

口ではそういうが、彼女の言葉を無視したりすれば、恐らく次の瞬間には自分の首は飛んでいるだろう。
何しろ彼女は「首をはねるのが好きな、ハートの国の女王陛下」なのだから。

「心配せずとも、お前の首をはねたりなどせぬよ。首だけになったお前より、こうして動いているお前の方がわらわには面白く見えるからの」

アリスのそんな考えを読み取ったのか、ビバルディはやはり緋色の唇を吊り上げながらそんな台詞を言った。

「・・・・・・じゃあ、貴女が面白く感じなくなったら私の首をはねるのかしら?」
「そうじゃのう・・・」

アリスの返答にビバルディはくすくすと笑う。
グリーンの瞳がアリスの足元から頭の上につけているリボンまでゆっくりと上下に動く。
切れ長の瞳に見つめられた瞬間、アリスは自宅で飼っている猫のダイナを思い出した。こちらが撫でようと手を伸ばすと嫌がるくせに、全く構われ無いと酷く不機嫌になる猫は、酷い悪戯や業と爪を立てたりなどありとあらゆる事をしてこちらの気を引こうとするが、その時の何が最も効果的なのかを考えている彼女の目と、今のビバルディの瞳は酷く良く似ていた。

「・・・ふふ、そういえばお前の首は落としても、消えないのであったな」

死ねば時計だけを残して消えてしまうこの世界の住民と違って、アリスの身体は残る。
滅茶苦茶な時間が流れるこの世界だ、きっと永遠に切られた当時のままの姿を保ち続けるのだろう。

「・・・・・・お前の首をわらわの部屋においておくというのも、おもしろいかもしれぬの」
「・・・・・・・・・冗談よね、ビバルディ?」

心底嫌そうな表情を浮かべたアリスとは対極に、ビバルディの顔は明るく良い事を思いついた、と言わんばかりに輝いている。

「無論本気じゃ」
「・・・・・・・・・・」

だってそうすれば――――彼女はもう何処にも行かない。
自分以外誰も見ない。

あのアリスの心を奪った時計屋さえも。

 

ビバルディの愛は純真な分、重くて濃いと思う。


7:夢でさえ
ナイトメア

「夢だよ」

と言うのが何時もの彼の台詞だった。
目が覚めたら消えてしまう夢の中で、夢のまた更に夢の中にいる彼は「夢だ、夢だ」と自分に繰り返す。

「・・・・・・あんたってどうしてそう、夢だとしか言わないのかしらね」

何時か聞いてみたいと思っていたことだった。
夢は夢、目が覚めたら消えてしまう儚いもの。
自分の夢の住民である彼らよりも、更に儚い存在である彼。二重に眠っていなければ出会えない彼。

「・・・そりゃあ私はナイトメアだから、夢を見させるのが商売みたいなものだし」
「そりゃあそうでしょうけれどね」
「それに、夢の中でないと君とは会えないしね」
「・・・・・別に夢の中じゃなくても、あんたが外に出てくれば良いことじゃないの?」

確かに彼はナイトメアではあるが、夢の中にだけいなければいけないというわけではないらしい。
以前ユリウスとエリオットが時計塔の中で打ち合った事が有ったが、その仲介役を務める為に夢の中から出てきたはずだ。

「こっちに来れば良いのに。そうすれば、結構頻繁に会えるんじゃないの?」
「いやだね、私はここが気に入っている。それに面倒は病院と同じくらい嫌いな物だ」

何処かの帽子屋と似たような台詞を言う、情けない夢魔の姿にアリスはため息をついた。

「・・・・・・それに」
「ん、何?」

 

「そっちで君に会うと、絶対に邪魔が入りそうだからね」

 

会える機会は減ったとしても、邪魔の入らない夢の中の方がどれだけ落ち着いて彼女と供にいられるか。
ここなら滅多に邪魔は入らない。
帽子屋も、女王も、遊園地のオーナーも、そして時計屋さえも。
この中に居る時だけは、自分が彼女を独り占めできるのだから。
ナイトメア・ゴットシャルク・・・。
何故かゴルシャックと思ってた。トが抜けただけで荘厳さが結構抜けるんだなぁ・・・。



8:零れ落ちてゆくもの
エリオット・マーチ

 

「私が殺してやるわ、エリオット」

カチリ、と彼女の白い指がトリガーを引く。
銃の扱いなど慣れてないだろうに、なのに銃口の先は真っ直ぐに自分に向けられていて。
それが僅かに震えているのは、彼女がまだ自分に銃を向けることを躊躇っているためか、それとも単に鉄の塊であるそれの重さのためだけなのか。

前者だったら良い。
そうは思うけれど、エリオットはそれが正しくない事を知っていた。
彼女は優しいけれど、だからといって自分と自分の大切な者を脅かそうとする者を排除する事を躊躇わないだろう。

エリオットがユリウスに銃を向けた一件以来、表面上アリスの態度は以前と変わらなかったけれど、それでもエリオットに向ける仕草や表情の節々に硬いものが混じるようになったのも事実だった。
エリオットは友達だが、何時かまた、彼はユリウスに対し同じ事をするだろうという確信がそうさせるのだろう。

そしてそれは間違っていない。
エリオットはユリウスに恨みを抱いているし、それは彼がアリスの恋人だからといって帳消しに出来てしまうような簡単な感情ではないのだから。
必ず機会があれば、いや今だって時計屋の胸に銃弾をぶち込んでやりたいと願っている。


9:惨めになるだけ

10:それでも好きです / それでも好きでした

Quinroze

QuinRoze

・Alice in Heart
ユリウス×アリス中心
・どうしようもない片思いで10のお題
・森


お題提供:善悪の彼岸 / アルフェリア
プロフィール

たつやん

  • Author:たつやん
  • FC2ブログへようこそ!
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
12  07  02  11  09  08  07  06  05  04  02 
cloverclock
カテゴリー
Yggdrasil
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。